喪服令嬢は復讐劇の幕を開ける~バカ王子が盟約を破ったので遠慮無く滅ぼさせて頂きます~
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それは数ヶ月後のとある酒場にて。
「おい、西のロザラウルス国がヤバイって聞いたか?」
「一夜にして国境付近に黒い棘が出現したって話だろう? 隣国に喧嘩でもふっかけるつもりなのかね」
「あー、その棘が出現してからかロザラウルス国で作物が全く育たなくて、今年の収穫は殆どないって話さ」
「本当か!? あの国の生産物って八割が果実や麦だっただろう」
「建国以来の不作だってさ」
「オレは井戸も涸れ始めたとかって聞いたぞ。水不足ってヤバくないか」
「ああ、民衆の怒りもそろそろ爆発するだろうな」
「だな。王族は何をやっていたんだか」
そう言いながら男達はエールのおかわりを頼んでいた。
酒場の端で食事をしていた旅人の装いをした私とソロモンの耳にも届いた。
「あー、なるほど。あの時滅ぼさなかったのはこういう」
「女神様の加護がなくなれば遅かれ早かれあの国は滅んでいたもの、一瞬で滅ぶよりも真綿で首を絞めるようにゆっくりと自滅していく方が清々するでしょう」
「メアリーは容赦ないな」
「褒め言葉をどうも」
私が新聞を出して記事に目を通していると、向かいに座っていたソロモンは隣に椅子を置いて、距離を詰めてくる。
相変わらず距離感が読めない男だ。腰に手を回すのが自然すぎて嫌悪感しかない。
ただこの数ヶ月で分かったのは、私が一々反応するのを楽しんでいる節があることだった。
ソロモンの言動を無視して、新聞に視線を戻す。
ロザラウルス国各地で民衆の暴動が活発化。
国境周辺に魔物の影が見え始めたという報告も書かれている。
王族が淘汰されるのも時間の問題だろう。
ただ王族を処刑しようと、新たな代表者が立ち上がっても国そのものを復興させるのは無理だ。元々沙漠だった土地が繁栄したのは、サラティローズ様とこの隣にいる男の恩恵が強かったのだから。加護なき場所に未来はない。この世界では特に。
人と神の関係性が国の行く末を決める。
怒りを買った土地に物好きな神が降り立つことはない。
緩やかに、けれど確実にあの国は滅びる。
(今までの生活が何によって成り立っていたのか思い知るといいわ)
胸の奥で眠っているサラティローズ様が安心できる場所を探してさし上げなければ。
そのためにも面倒だが、この男の体の部位を探してさっさと別れたい。
「メアリー、次は何処の国に行くんだい?」
「ソロモンの伝承が残っている周辺各地を虱潰しに回る予定」
「え、本当に探してくれるんだ。(てっきり国を出たら逃亡すると思っていたのに、本当に律儀な子だな)」
「約束は守る主義なの」
「じゃあ、賭けのことも本気?」
「もちろん」
ソロモンは目を細め、私の髪を一房掴みキスを落とす。
ちゃっかり加護を付与するあたりが憎らしい。
「そっか、じゃあ俺も賭けのために頑張って振り向いて貰わないとな」
「ガンバレ」
「酷い。この容姿で惚れないなんて凹むな。(どうすればその強くて美しい瞳は俺に向いてくれるだろう? まあ、時間はいくらでもあるか)」
「はいはい」
復讐劇の次は喜劇か、悲劇か。あるいは幕間劇となるか。
それは神様でも分からないだろう。