振り解いて、世界
「出て来ないの?」
「出て来ない!」
わたしは裸のまま、近くにあった白いカシミヤのブランケットを頭まで被り、ベッドのどこかで散らばっているであろう下着を手探りで探した。
ブランケットの外から、悪戯好きの子どものような笑い声が聞こえてくる。
「顔くらい出したらいいのに」
ばか言わないでよと心の中で悪態をつく。
自分でも知らない一面を暴かれて乱れまくった後、一緒の空間にいることすら今は恥ずかしくて耐えられないくらいだ。
言い返そうとしたけど、「恥ずかしい」なんて口にする方がもっと恥ずかしいことに気が付き、無言でブランケットの外に出した腕を動かす。
「恥ずかしがってんのも可愛いけど」
「全然恥ずかしくないし」
「じゃあ、これもう良くない?」
ブランケットがめくられそうになり、わたしは慌てて腕で押さえつけた。
「だめだめ! セレンだって、まだ何も着てないでしょ!? お互いのために、その、見ないようにするのがいいと思うんだよね」
「下は履いてるけど。それにもう見たし、さっき」
「さっきはいいけど今は嫌なの!」
丸めた身体をイモ虫のようにもぞもぞと動かし、セレンから離れる。
また笑い声が聞こえてくるけど、わたしには知ったことじゃない。
「ベッドに変な生き物がいる」
「うるさいな」
「あ、これいろ巴のかな」
「どれ!?」
ブランケットから勢いよく顔を出すと、肘をついて横になっているセレンの姿が視界に飛び込んできた。
上半身は何も身に着けていないせいで、キメ細かい肌がフロアライトの淡い輝きに照らされてつやつやと光っている。
まったく眩しくないのに、どういうわけかやたらと眩しい。
セレンが緩やかに唇を持ち上げると、蠱惑的な甘い香りが漂った―――ような気がする。
「ほら、靴下」
セレンは、わたしの黒い靴下を1枚つまんで持ち上げた。
「靴下」
「探してたのかなと思って」
「靴下なんか探すわけないじゃん! それよりもっと必要なものがあるでしょ? しかも、裸に靴下ってありえないくらいダサい組み合わせだしさ」
「これじゃなかった?」
「違う、全然違う!」
セレンから靴下を奪い取り再び隠れようとした途端、太い腕がブランケットの中まで伸びてくる。
手のひらが、肩から背中をするりといやらしく撫でた。
「別にいいじゃん、そのままで」
「よ、良くないよ! それよりも手つきがなんかあやしいというか……」
「そう? 今からまたするからかな」
「今から、また!?」
「今日は朝までずっとこのままだよ」
「朝まで……!」
呆気に取られている間にブランケットを無理やり剥がされ、セレンがわたしに跨る。
むき出しになったなけなしの胸を両手で隠して、目の前の色気だだ漏れな男を睨みつけた。
「セレンのばか、変態!」
「おれ、いろ巴が考えてる百倍はえろいと思うよ」
「は!? どういうこと?」
「分かんないなら、確かめてみて」
唇に、セレンの唇が軽く押し当てられる。
睫毛が触れ合いそうな距離で、焦がれるような視線をうんと浴びると喉が小さく唸った。
だめだ。
セレンが好きすぎて、もう一ミリも勝てる気がしない。
諦めにも近い気持ちで微笑みを返す。
きっとこうしてセレンに振り回されることは、これから先も変わらずにずっと続くんだろう。
けれどそれも悪くないかもな、なんて幸せな未来に思いを馳せながら、わたしはゆっくり目を閉じた。