振り解いて、世界
おしりを突き出したまま、後ろから乱暴に腰を打ちつけられ、はしたない声をあげる。
でも気にしている余裕はなかった。
気持ちがいい。
頭がおかしくなるくらい気持ちがいい。
グランドピアノについた腕に顔を埋めると、唇の端から勝手に唾液がこぼれていく。
汚いのに、それも全部どうでも良くなった。
今までのセックスって何だったんだろうと思うくらい、強く激しく揺さぶられている。
これが本当のセックスなら、なんて恐ろしいんだろう―――そう思う反面、この行為がずっと続いて欲しいと全身で望んでいる自分もいる。
めちゃくちゃに身体が揺れて、心がこぼれ落ちてしまいそうだ。
「わ、あ……だめ、」
「だめじゃない。『いい』は?」
「やだ、恥ずかし……」
「じゃあ、やめるよ」
ピタリと揺れが止み、わたしは肩越しにセレンを見やった。
「やめないで」
「ちゃんと言ってみて」
「恥ずかしいもん」
「ふぅん。それなら、もうしない」
セレンは悪戯に目を細め、わたしを見下ろした。
こんなの嫌だ。
ふるふると首を振って、散り散りになった反抗心を何とか掻き集める。
「やめないでよ、セレンのばか。お願い、続きして」
「ちゃんと言って」
「もう! わたしだってセレンが欲しいんだよ、何でくれないの? セレンの意地悪」
「でもいつもより興奮してるみたいだけど」
腰からお腹、その下へとじらすように手が下りていく。
敏感になったそこを撫で上げられ、背筋にビリビリとしたものが走るとわたしは声を上げた。
「ほら、なんて言うの」
「……いいの。お願い。来て、セレン」
荒っぽく腰を掴まれ、再び激しい律動が始まる。
待ち望んでいた刺激が全身を襲い、呼吸を忘れるような快楽に飲み込まれて視界が真っ白に染まった。
ふっと足の力が抜け、床に膝が付きそうになるも、セレンに腰を掴み直されてまた深く突かれる。
満たされてもすぐに足りなくなるその場所に刺激を与えられ、小さな呻き声をあげた。
もっと欲しい。
このままぐちゃぐちゃになるまで続けて欲しい。
心は、とっくの昔に落っことしてしまったのかもしれない。
さらなる強い刺激を求めて、グランドピアノにしがみつきながらみっともなく腰を突き出した。
「もっと欲しい?」
「お願い」
「こっち向いて、舌出して」
セレンに言われた通り、振り返って舌を出すとセレンの舌に絡め取られる。
胸に触れるゴツゴツとした指の感触を感じながら、息もできないほどの濃厚なキスを浴びて思わず意識が飛びそうになった。
「おれだけのものだよ、いろ巴は」
「分かった……分かったよ」
「もう一回」
唇を貪られ、がつがつと突き上げられる。
欲しかった刺激が与えられ、目の前がチカチカするほど歓喜した。
わたしよりも、この身体のほうがセレンのことを知っているのかもしれない。
セレンの胸の奥にある、執着にも似た深くて大きな何かを。
はっきりとは分からない―――けれど、それが全部わたしに向けられたものだということを泥のように重くなる意識の中、嫌ほど思い知らされたような気がした。
【了】
(連載、お付き合いいただきましてありがとうございました!完結後も本棚に入れてくださっている読者様に、感謝を込めて)