イケメンシェフの溺愛レシピ
名前を呼ばれて哲也の顔を見上げると、彼は軽く微笑んだ。

「心配しなくていい。」

やわらかい表情。甘い笑顔。そして綾乃を抱き寄せる力強い片腕。
ほんの1時間ほど前に彼に選んでもらったワンピースに身を包む綾乃は、彼の腕が自分の体に絡まるのを拒まない。
これから先もこの腕に抱かれていたい。
そのためには、大変そうな一つ一つを乗り越えていかなくてはと思う。
その瞬間だった。

「こんばんは」

振り向くと、哲也に似た背格好のスーツ姿の男性と藤色の着物姿の女性が立っていた。
女性のほうの知的でセクシーな目元は、哲也によく似ている。
この場に現れた二人は間違いなく哲也の両親だった。

「こ、こんばんは」

綾乃はすぐに頭を下げる。仕事柄、有名人だとか立派な人に会う機会は多くあったけれど、結婚を考えている相手の両親に会うというのはそれよりももっと緊張する。

「ご足労いただいてすみませんでしたね」
「い、いえ!」

いつになくぎこちない綾乃に気づいた哲也はすぐに言った。

「堅苦しいのはやめよう。綾乃、紹介する。うちの両親。それから彼女が中原綾乃さん。将来を考えてお付き合いをさせていただいている」

将来を考えてお付き合い。
その言葉が何を意味しているかは哲也の両親もわかっていたように、それが聞けてよかった、というような顔をした。安堵、といえる表情だったかもしれない。
品定めされるように眺められるか、冷たくあしらわれるかなどとネガティブなことを考えていた綾乃にとっては、そのにこやかな表情は若干拍子抜けするような瞬間でもあった。


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