イケメンシェフの溺愛レシピ
「どの料理もオリーブの味がしっかりしてますね~!」
「チーズも日本のものより味が濃いです。」

嬉しそうに料理を頬張る智香と圭太を横目に、哲也は柔らかく笑った。

「勉強になっているならよかったよ」

そんなオーナーシェフの甘い微笑みに、智香はもちろん圭太もうっとりした表情をみせる。もちろん、変な意味ではなく、尊敬とか、憧れとかそう言う感じのものだ。
そしてそんな彼らを見ていると、こうしてみんなで賑やかに旅行しているのもいいものに思える。

実際のところ、一週間以上も有給休暇を与えられても、どう過ごしたらいいのか困るスタッフが多いのも事実だった。中には海外旅行に抵抗があったり、いい機会なので実家に帰省したいと言うものがいたりで、この旅行に参加したメンバーは多くはなかったけれど、きっと改装オープン後の仕事に活きることばかりだろう。

「本物を体験スル。これが一番デース!」

笑って言うフラヴィオは、祖国イタリアの空気を吸って一層活き活きと、パワーアップしているようだった。
コン・ブリオの研修旅行になぜかフラヴィオまでもが同行しているかについては、ちょっと理解できない部分もあるが、彼は自分の故郷をめいっぱい楽しんでもらおうと運転手を買って出たり、郷土料理が食べられる店を予約したりと、柄にもなく(?)世話を焼いてくれている。

トスカーナの地は彼の地元というだけあって、日本ではあまり知られていないワイナリーやレストランへもお邪魔させていただいた。
時間の都合で行けない都市も多かったが、ローマを拠点に効率よくイタリアを回れたのはフラヴィオのおかげ…と思いたい綾乃だった。

「綾乃さん、明日はトレヴィの泉にコインを投げて、真実の口に手を入れて写真撮りましょうね!」

そう言ってブルスケッタを頬張る智香もまた、フラヴィオと同じようなものだ。智香といるとすっかり女子旅のテンション。いや、これはこれで楽しい思い出にはなるのだが。

ちらりと横に視線を向けると、哲也はフラヴィオとウェイターの男性とイタリア語で談笑している。
イタリアで修行していた頃も、きっとこういう感じだったのかな、などと綾乃は想像してみる。こんなふうに彼の横顔を見れるのもまた貴重だ。
それでも。

哲也と初めてのイタリア。人生で一度きりのハネムーン。

自分がそんな乙女チックなことにこだわるタイプだとは思っていない綾乃だったが、なんだかちょっとだけいじけてしまいそうな、賑やかなローマの一日だった。
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