イケメンシェフの溺愛レシピ
コインに願いを込めて
「ハーイ、アヤノ!トモカ!笑ってー!」
ローマ市街のジェラートショップの前で、二色のイタリアンジェラートを智香は笑顔で頬張る。その隣で綾乃はぎこちない笑顔をカメラに向けた。正確にはカメラを持つフラヴィオに向かって。
スペイン広場の有名な階段は飲食が禁止されたということもあって、背景に階段が映るような場所を無理やり見つけて写真に収める。映画の再現とはいかなかったがこれはこれでいい思い出の一つだ。
そしてローマの陽ざしを受けて輝くフラヴィオの隣で、哲也は軽く微笑みながら綾乃と智香を見守っていた。その様子はもはや、父兄のようでもある。
「ハイ、カワイク撮れたヨー!SNSでイイネいっぱい来るハズ!」
「わあ、フラヴィオは写真も上手なんですね~!」
盛り上がるフラヴィオと智香を横目に、綾乃は早くも疲れきっていた。この事態と人込みに。
「平日午前でもこんなに混んでいるなんて」
思わず綾乃はローマの青い空を仰ぐ。研修旅行という名目のため、ワイナリーの訪問に郷土料理の実食が続き、昨夜も遅くまでイタリア料理とワインを楽しんでいたこともあり、疲労はピークに達しつつあった。
しかしながらやはり数多くの世界遺産やグルメがあるイタリアへ来れば見たいものも食べたいものも多い。
「仕方ないですよ、みんな考えることは同じなんです」
そう言いながらも智香は笑顔だ。そりゃ、そうだろう。思いがけずイタリア旅行に同乗できたのだから。
そして綾乃にはない若さが智香にはあった。自分が通ってきた道ではあったが、智香はもっとのびのびと仕事をしているように見えた。もともとの性格もあるが、智香は素直だ。流れに逆らったりしないし、状況にあわせてきちんと甘えたり、頼ったりする。きっと後輩や部下を持てば、うまく導いてあげられるのだろう。
この状況にも見事適応した智香は上機嫌にジェラートを舐める。そんな横顔を見ていた綾乃の手元が、ぐっと掴まれて思わず色気のない声を上げた。
「ギャッ!」
顔を上げると哲也がジェラートを持った綾乃の手をぐっと引っ張った。そして次の瞬間、綾乃は手首にキスをされたような感触があった。
「溶けてたから」
そう言うと哲也はニッと揃った歯並びをのぞかせて笑顔をみせた。
周囲にはジェラートを食べられただけに見えたであろうが、手首とは言え不意打ちのキスをされた綾乃はつい手を振り払って赤くなった自分の頬を隠した。
「おいしいうちに食べないとな」
そう言うと、哲也はう一度、ジェラートを持ったほうの手を掴んで自分に引き寄せ、綾乃の手から再びジェラートを食べた。
いっきにデートみたいな雰囲気だ。これがもし二人きりだったなら綾乃だってもうちょっと堂々としていられる。でも、智香やフラヴィオ、コン・ブリオのスタッフたちに見られるのはちょっと抵抗があった。
何も言えずにいる綾乃に、哲也は少しだけ表情を曇らせる。
「口に合わない?」
「ううん、おいしいわ。」
本場のジェラートの濃い味わい。ここに来ることができてよかったと思う。
でももしも二人でイタリアに来ていたならどんな時間を過ごしていただろう。この賑やかな旅行についてどう感じているのだろう。
二人きりになれたら、もうちょっと素直になれる気がするのに。
ローマ市街のジェラートショップの前で、二色のイタリアンジェラートを智香は笑顔で頬張る。その隣で綾乃はぎこちない笑顔をカメラに向けた。正確にはカメラを持つフラヴィオに向かって。
スペイン広場の有名な階段は飲食が禁止されたということもあって、背景に階段が映るような場所を無理やり見つけて写真に収める。映画の再現とはいかなかったがこれはこれでいい思い出の一つだ。
そしてローマの陽ざしを受けて輝くフラヴィオの隣で、哲也は軽く微笑みながら綾乃と智香を見守っていた。その様子はもはや、父兄のようでもある。
「ハイ、カワイク撮れたヨー!SNSでイイネいっぱい来るハズ!」
「わあ、フラヴィオは写真も上手なんですね~!」
盛り上がるフラヴィオと智香を横目に、綾乃は早くも疲れきっていた。この事態と人込みに。
「平日午前でもこんなに混んでいるなんて」
思わず綾乃はローマの青い空を仰ぐ。研修旅行という名目のため、ワイナリーの訪問に郷土料理の実食が続き、昨夜も遅くまでイタリア料理とワインを楽しんでいたこともあり、疲労はピークに達しつつあった。
しかしながらやはり数多くの世界遺産やグルメがあるイタリアへ来れば見たいものも食べたいものも多い。
「仕方ないですよ、みんな考えることは同じなんです」
そう言いながらも智香は笑顔だ。そりゃ、そうだろう。思いがけずイタリア旅行に同乗できたのだから。
そして綾乃にはない若さが智香にはあった。自分が通ってきた道ではあったが、智香はもっとのびのびと仕事をしているように見えた。もともとの性格もあるが、智香は素直だ。流れに逆らったりしないし、状況にあわせてきちんと甘えたり、頼ったりする。きっと後輩や部下を持てば、うまく導いてあげられるのだろう。
この状況にも見事適応した智香は上機嫌にジェラートを舐める。そんな横顔を見ていた綾乃の手元が、ぐっと掴まれて思わず色気のない声を上げた。
「ギャッ!」
顔を上げると哲也がジェラートを持った綾乃の手をぐっと引っ張った。そして次の瞬間、綾乃は手首にキスをされたような感触があった。
「溶けてたから」
そう言うと哲也はニッと揃った歯並びをのぞかせて笑顔をみせた。
周囲にはジェラートを食べられただけに見えたであろうが、手首とは言え不意打ちのキスをされた綾乃はつい手を振り払って赤くなった自分の頬を隠した。
「おいしいうちに食べないとな」
そう言うと、哲也はう一度、ジェラートを持ったほうの手を掴んで自分に引き寄せ、綾乃の手から再びジェラートを食べた。
いっきにデートみたいな雰囲気だ。これがもし二人きりだったなら綾乃だってもうちょっと堂々としていられる。でも、智香やフラヴィオ、コン・ブリオのスタッフたちに見られるのはちょっと抵抗があった。
何も言えずにいる綾乃に、哲也は少しだけ表情を曇らせる。
「口に合わない?」
「ううん、おいしいわ。」
本場のジェラートの濃い味わい。ここに来ることができてよかったと思う。
でももしも二人でイタリアに来ていたならどんな時間を過ごしていただろう。この賑やかな旅行についてどう感じているのだろう。
二人きりになれたら、もうちょっと素直になれる気がするのに。