イケメンシェフの溺愛レシピ
仕事中ですから
とっておきのデリバリーに心とお腹を満たしてもらった綾乃は仕事にもエンジンがかかっていた。
「いい企画じゃないか。で、シェフは出てくれるって?」
そういってA4の用紙2枚にまとめた企画書に目を通して笑顔で言うのは綾乃が担当する番組のチーフプロデューサーだ。やっぱりリフレッシュは重要なのだと綾乃はしみじみ感じる。
「これから正式に相談しますが、たぶん大丈夫だと思います。」
自信ありげに言う綾乃の横で、ADの智香が少しだけにやついていた。
「綾乃さんと石崎シェフは名コンビですもんね。ケンカしつつ視聴率稼ぐっていう」
「智香うるさいっ」
コーヒーを置きつつ、にやついていた智香をあしらうと綾乃はチーフプロデューサーに念を押した。
「この企画でいきたいです。石崎シェフには私からお話しますから、大丈夫です」
自信満々な、堂々とした綾乃の笑顔に、チーフプロデューサーは頷いた。任せた、と言って。
早速コン・ブリオに伺う約束を取り付ける。明日OKとのこと。ランチ営業終了後の時間帯に約束をして、綾乃は再びパソコンをいじる手を動かし始めた。
仕事とはいえ、哲也に会えることが嬉しい。同時に、自分のいいところを見てもらいたい気持ちもあって仕事も頑張れる。資料を丁寧に作るのは、少しでもわかりやすく企画を伝えられるように、イメージしやすいように、一緒にいい番組が作れるようにするためだ。
「こんにちはー!」
ランチ営業終了後かつディナー準備中の時間を狙ってコン・ブリオを綾乃が訪れると、休憩時間でスタッフたちがまかないランチを食べていた。
「あ、早かったですね。すみません」
コン・ブリオの素晴らしいところは、若手調理スタッフが作った栄養満点の料理をみんなで囲んで昼休憩をとるところだ。
哲也や先輩シェフたちはときに厳しい意見を言うこともあるが、まだ学ぶことの多い若い者たちにとってそれは貴重な時間であり、他のホールスタッフたち含め、全員の交流が深まる大事なひとときだ。
綾乃も取材時に厚かましいと思いながらもご一緒させていただいたことが何度かある。
‘まかない’と言ってしまうには恐れ多いほど、それは立派なご馳走で、店名のコン・ブリオ─活き活きと、元気に─という力が湧いてくるような、栄養満点の料理だった。
一同が食事をしているところに遭遇して綾乃が言うと哲也が「平気だよ」と声をかけて綾乃を案内しようと立ち上がったが、それと同時に、綾乃は一人の女性に気づく。
園部真理子。
彼女は綾乃と目が合うとごく控えめに会釈をしてくれた。
顔を合わせるのは二度目だが、特に知り合いでもないし仕事のつながりがあるわけでもない間柄にとって、それは一番適切な対応だろう。つられるようにして綾乃も頭を下げる。
「もし昼食がまだなら一緒にどう?今日のまかないはルッコラとクレソンのグリーンパスタ。イサキのオーブン焼きもある。他では食べられない絶品だ」
そういってテーブルを見ると、真理子の席にも爽やかなグリーンが見えた。一緒にまかないランチを食べるほど親しいんだ。
綾乃の頭にはそのことだけがあった。
そして次の瞬間、強欲な自分の感情を慌ててかき消す。
そりゃ、何か月も雑誌で連載をしていれば、何回も顔を合わせる機会だってあるし、撮影の後でみんなで味見がてら食事をすることもある。自分だけを特別扱いして欲しいなんて、ワガママだ。
それでも、なんだかすごく嫉妬してしまう。彼女がそこにいることが。
「お昼、食べてきちゃったの。残念。こっちのテーブル借りていい?ちょっと資料の準備させて欲しいの。」
綾乃はなるべく自然に反対側の一番遠い窓際の席を指刺すと、スタッフたちが昼食をとっているテーブルに背を向けた。そこはちょうど死角になっていて、姿を隠せるポジションに腰を下ろすと、やっと少し心が落ち着いた気がした。
「いい企画じゃないか。で、シェフは出てくれるって?」
そういってA4の用紙2枚にまとめた企画書に目を通して笑顔で言うのは綾乃が担当する番組のチーフプロデューサーだ。やっぱりリフレッシュは重要なのだと綾乃はしみじみ感じる。
「これから正式に相談しますが、たぶん大丈夫だと思います。」
自信ありげに言う綾乃の横で、ADの智香が少しだけにやついていた。
「綾乃さんと石崎シェフは名コンビですもんね。ケンカしつつ視聴率稼ぐっていう」
「智香うるさいっ」
コーヒーを置きつつ、にやついていた智香をあしらうと綾乃はチーフプロデューサーに念を押した。
「この企画でいきたいです。石崎シェフには私からお話しますから、大丈夫です」
自信満々な、堂々とした綾乃の笑顔に、チーフプロデューサーは頷いた。任せた、と言って。
早速コン・ブリオに伺う約束を取り付ける。明日OKとのこと。ランチ営業終了後の時間帯に約束をして、綾乃は再びパソコンをいじる手を動かし始めた。
仕事とはいえ、哲也に会えることが嬉しい。同時に、自分のいいところを見てもらいたい気持ちもあって仕事も頑張れる。資料を丁寧に作るのは、少しでもわかりやすく企画を伝えられるように、イメージしやすいように、一緒にいい番組が作れるようにするためだ。
「こんにちはー!」
ランチ営業終了後かつディナー準備中の時間を狙ってコン・ブリオを綾乃が訪れると、休憩時間でスタッフたちがまかないランチを食べていた。
「あ、早かったですね。すみません」
コン・ブリオの素晴らしいところは、若手調理スタッフが作った栄養満点の料理をみんなで囲んで昼休憩をとるところだ。
哲也や先輩シェフたちはときに厳しい意見を言うこともあるが、まだ学ぶことの多い若い者たちにとってそれは貴重な時間であり、他のホールスタッフたち含め、全員の交流が深まる大事なひとときだ。
綾乃も取材時に厚かましいと思いながらもご一緒させていただいたことが何度かある。
‘まかない’と言ってしまうには恐れ多いほど、それは立派なご馳走で、店名のコン・ブリオ─活き活きと、元気に─という力が湧いてくるような、栄養満点の料理だった。
一同が食事をしているところに遭遇して綾乃が言うと哲也が「平気だよ」と声をかけて綾乃を案内しようと立ち上がったが、それと同時に、綾乃は一人の女性に気づく。
園部真理子。
彼女は綾乃と目が合うとごく控えめに会釈をしてくれた。
顔を合わせるのは二度目だが、特に知り合いでもないし仕事のつながりがあるわけでもない間柄にとって、それは一番適切な対応だろう。つられるようにして綾乃も頭を下げる。
「もし昼食がまだなら一緒にどう?今日のまかないはルッコラとクレソンのグリーンパスタ。イサキのオーブン焼きもある。他では食べられない絶品だ」
そういってテーブルを見ると、真理子の席にも爽やかなグリーンが見えた。一緒にまかないランチを食べるほど親しいんだ。
綾乃の頭にはそのことだけがあった。
そして次の瞬間、強欲な自分の感情を慌ててかき消す。
そりゃ、何か月も雑誌で連載をしていれば、何回も顔を合わせる機会だってあるし、撮影の後でみんなで味見がてら食事をすることもある。自分だけを特別扱いして欲しいなんて、ワガママだ。
それでも、なんだかすごく嫉妬してしまう。彼女がそこにいることが。
「お昼、食べてきちゃったの。残念。こっちのテーブル借りていい?ちょっと資料の準備させて欲しいの。」
綾乃はなるべく自然に反対側の一番遠い窓際の席を指刺すと、スタッフたちが昼食をとっているテーブルに背を向けた。そこはちょうど死角になっていて、姿を隠せるポジションに腰を下ろすと、やっと少し心が落ち着いた気がした。