イケメンシェフの溺愛レシピ
そんな綾乃の願いに気づいたか気づかないか、哲也は綾乃の手を取って泉の右側へと歩き出した。
そこは少しだけ人込みから隠れるみたいになっていて、岩からは二か所から細い水がぴゅーっと噴き出していた。
「これは?」
「L’acqua dell’amore、愛の水と言うのかな。この水を飲んだ恋人や夫婦や永遠に別れずに幸せになれるって言われているんだ」
「へえ」
思いがけず哲也がロマンティックな話をしたので、綾乃は意外そうな顔をした。
「綾乃と一緒にいただこうかと思って」
「えっ」
驚いた顔を見せた綾乃に哲也は笑う。
「なんで驚くんだよ。いいじゃないか。せっかくローマに来たんだから。」
「いや、哲也がそんな神話みたいな話を信じているなんて」
「信じる、信じないじゃなくてさ。願い事をかけるのはいいと思うんだ。願わなければ叶わないからね」
そう言って彼はその大きな手を少し丸めて柄杓の代わりを作ると、流れてくる水を受け止めて自分の口元に運んで味見をするように水を飲んだ。
「さ、綾乃も。飲んで大丈夫だから」
そう言って彼の手が綾乃の口元に近づけられる。少し人気がないとはいえ、水を飲ませてもらうのはなんだか恥ずかしい気がした。アーン、と食べ物を食べさせてもらっているみたいだったから。
「いや、その。」
「口移しのほうがいい?」
「それは望んでないから!」
真顔で言う哲也に綾乃は全力で否定する。
「そんないやがるなよ。せっかくローマに来たんだから」
はい、ともう一度哲也は笑って水の入った手を綾乃の口元に差し出す。ちょっとでも油断すれば水はこぼれてしまうだろう。
ほら、ともう一度、じっと哲也に見つめられてローマの神聖な(?)水が差し出される。
綾乃は観念したように、一つため息をつく。
どうせ泉のほうにいる智香やフラヴィオに見られることはないだろう、と思って綾乃はその手に唇をつけると、その水を勢いよく飲み干した。
「ごちそうさまでした!」
子どもみたいに元気よく言うと、哲也は可笑しそうに笑った。
仕方ないじゃない、というように綾乃がわずかに頬を膨らませる。この状況でかわいらしく水を飲んで哲也に甘える、なんてこと綾乃にはとてもではないができない。
口元についた水滴を拭こうと思ったところで、哲也の指先が綾乃の唇をなぞった。
「水がついてる」
そう言って哲也の熱い視線をじっと向けられると、綾乃はとたんにまた落ち着かなくなる。彼が触れたわずか数センチの箇所が熱を持っていた。もしもこの彫刻の影に隠れたまま二人きりのローマならこのまま唇を重ねてもいいかもしれない。そんな空気が漂う。しかし甘い雰囲気は、研修旅行には必要ないのだ。いつどこで彼らの目が光っているとも限らない。
「ハンカチ持ってるから!大丈夫!」
そう言って慌てて笑ってバッグから綾乃はハンカチを取り出した。哲也はそんな様子にも笑ってくれた。綾乃の考えていることなど全部わかっているみたいに。
そこは少しだけ人込みから隠れるみたいになっていて、岩からは二か所から細い水がぴゅーっと噴き出していた。
「これは?」
「L’acqua dell’amore、愛の水と言うのかな。この水を飲んだ恋人や夫婦や永遠に別れずに幸せになれるって言われているんだ」
「へえ」
思いがけず哲也がロマンティックな話をしたので、綾乃は意外そうな顔をした。
「綾乃と一緒にいただこうかと思って」
「えっ」
驚いた顔を見せた綾乃に哲也は笑う。
「なんで驚くんだよ。いいじゃないか。せっかくローマに来たんだから。」
「いや、哲也がそんな神話みたいな話を信じているなんて」
「信じる、信じないじゃなくてさ。願い事をかけるのはいいと思うんだ。願わなければ叶わないからね」
そう言って彼はその大きな手を少し丸めて柄杓の代わりを作ると、流れてくる水を受け止めて自分の口元に運んで味見をするように水を飲んだ。
「さ、綾乃も。飲んで大丈夫だから」
そう言って彼の手が綾乃の口元に近づけられる。少し人気がないとはいえ、水を飲ませてもらうのはなんだか恥ずかしい気がした。アーン、と食べ物を食べさせてもらっているみたいだったから。
「いや、その。」
「口移しのほうがいい?」
「それは望んでないから!」
真顔で言う哲也に綾乃は全力で否定する。
「そんないやがるなよ。せっかくローマに来たんだから」
はい、ともう一度哲也は笑って水の入った手を綾乃の口元に差し出す。ちょっとでも油断すれば水はこぼれてしまうだろう。
ほら、ともう一度、じっと哲也に見つめられてローマの神聖な(?)水が差し出される。
綾乃は観念したように、一つため息をつく。
どうせ泉のほうにいる智香やフラヴィオに見られることはないだろう、と思って綾乃はその手に唇をつけると、その水を勢いよく飲み干した。
「ごちそうさまでした!」
子どもみたいに元気よく言うと、哲也は可笑しそうに笑った。
仕方ないじゃない、というように綾乃がわずかに頬を膨らませる。この状況でかわいらしく水を飲んで哲也に甘える、なんてこと綾乃にはとてもではないができない。
口元についた水滴を拭こうと思ったところで、哲也の指先が綾乃の唇をなぞった。
「水がついてる」
そう言って哲也の熱い視線をじっと向けられると、綾乃はとたんにまた落ち着かなくなる。彼が触れたわずか数センチの箇所が熱を持っていた。もしもこの彫刻の影に隠れたまま二人きりのローマならこのまま唇を重ねてもいいかもしれない。そんな空気が漂う。しかし甘い雰囲気は、研修旅行には必要ないのだ。いつどこで彼らの目が光っているとも限らない。
「ハンカチ持ってるから!大丈夫!」
そう言って慌てて笑ってバッグから綾乃はハンカチを取り出した。哲也はそんな様子にも笑ってくれた。綾乃の考えていることなど全部わかっているみたいに。