旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
 それは、私が十四歳の頃で、お互いにまだまだ青臭かった頃。
 私の旅館に、麟斗君が住み込んでいた頃。
 宿の経営の基礎を学ぶ為に来てたんだっけ?
 仕事に没頭してサイボーグみたいだった麟斗君。彼に話しかけては茶化す日々だったなー。
 無邪気に鳴く小鳥が如くの私を尻目に、麟斗君は経営腕を身につけていって。

 「…最高に格好よくなったね、麟斗君。」
 今でも、私は華奢で小さくて、彼は逞しくて大きいまま。差は開きっぱなし。
 しんみりしてしまって、瞳がなんでかな、潤んできた。
 言葉に出来ない感情が込み上げてくる。
 こうして麟斗君に寄り添ってると、『この先は絶対に大丈夫』って、わかるんだもの。
 私じゃ旅館のこと、どうにもできなかったけど。
 麟斗君の胸元に添えていた手で、彼にしがみついた。
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