旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
 「麟斗様、到着しました。」
 「ご苦労様。さて凛子、降りようか。」
 「えっーっ。もう少しこうしてたかったな…。」
 正直な気持ちを伝えて、私は頬を膨らませて拗ねてみる。
 「そんな、甘えた態度をとるなよ…。困るから。」
 彼は、また照れながら私に注意する。
 麟斗君の胸元が名残惜しいけれども、私は渋々と車から降りた。
 「ここ…、レストラン・デ・ラ・メール・ブルーじゃない?」
 目の前には、白と黒を基調に建てられているなんともモダンな建物がある。大きく広がる窓は、全て蒼く透き通る海のようなガラスで作られている。
 煌めく蒼い窓から外の景色を覗いたら、きっと世界は神秘の海底に沈んだ王国の様に瞳に写るんだろうな。
 レストラン・デ・ラ・メール・ブルーはモン・サン・ミッシェルのイメージなのに、着物で来てしまったけれども。不思議な気持ち。
 「私の格好、場違いじゃないかしら。和装で来ちゃった。」
 「そんなことはないさ。これから婚約するのだから、似合ってるよ。」
 さらっと、麟斗君は「婚約」の言葉を口にする。
 「婚約」の言葉に硬直する私を、麟斗君はレストランへとエスコートしてくれた。
 「もう逃げられないからな。覚悟は決めてくれ。」
 いい放つ顔は、爽快としていた。
 「喜んで、お受けします。」
 二人っきりの初デート、そして婚約。私の顔は自然と綻んだ。
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