旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
 「麟斗君って、案外繊細なロマンチストな感性を持ってるのね♪」
 ストイックな麟斗君からは想像もつかない、夢と乙女心を擽るような、小説の中の魔法世界みたいなところに連れてくるなんて。
 「意外ってなんだよ…。凛子を連れてくるなら、こういう夢みたいなところかなって。好きだろ?」
 「うん。好き。」
 「やっぱり、よく凛子が集めてた本の雰囲気に似てたから。」
 成る程。学才時代に集めてた旅行雑誌やガーデニング雑誌に載ってた写真が、此のお店の雰囲気に似てるのか。
 一緒に過ごしてたこともあると言えど、よく見てくれてて、照れてしまう。
 ウェイターは雰囲気を察して、静かに退場していた。
 私達は、丸テーブルの奥にあるソファーに腰を下ろす。
 向かい合わせではなく、横に並んで同じソファーに座る。
 会食みたいな、向かい合わせを想像してたので、こんなに隣同士で婚約進めるんだ!?と、驚いてしまった。
 挙動不審な私をみて、麟斗君は計画通りといった不適な笑みを浮かべている。
 「少し薄暗いけど、凛子の顔がよく映える。」
 「最高のVIPルームだよな。」
 麟斗君は、私の肩に手を添えて抱き寄せた。
 私はそのまま、もたれ掛かって、麟斗君の意のままになる。
 先程のウェイターが、また静かに現れて、コース料理の前菜を運んできた。
 「ムール貝と季節の野菜のマリネでございます。」
 前菜と言えど、凝った料理が運ばれる。
 私が食べているよりもワンランクは上であろう、コース料理である。
 「これまた、お洒落だね。」
 私の悲しい貧相お嬢様コメントだけども、本音の言葉である。
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