旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
「そうそう…。今日は、来客があるんだったっけ。」
 「私が必ず出迎えなきゃいけない来客なんて、珍しいかも。」
 普段の来客は、平社員の従業員や交渉担当の者が対応してくれているので、私相手には来ることは滅多にない。
 (これは、もしかしたら、とてつもなく重要な案件が来るのかしら!?)
 もしかしたら、総理大臣が泊まりにいらっしゃるのかもしれないって事!?
 そうでなければ、『今日は必ず。必ず、上等の着物を着てきなさい。』と、会長である父・虎治に言われないはずだ。
 私は、テーブルの上に置いておいた着物を取る。
 昨日念入りに選んだ、翡翠色の上品な着物を、丁寧に手で扱いながら、淑やかに着替えていく。
 流石は地元でも長く続く旅館の令嬢である。
 所作がとても美しく、その姿を見るものは一目で見惚れるだろう。
 「さっ。これなら訪問相手が国の官僚だったって、失礼ないはず。」
 着物や髪が乱れていないか確認するため、鏡の前に立ってみた。
 自分で言うのも難だが、非常に美しいのでは?
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