旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
手入れのされた奥ゆかしい日本庭園の中を通り抜ける。庭は所々苔むしていて、それがまた歴史ある風情がある。
 敷石を踏みしめながら、私達は来賓別邸へとたどり着いた。
 別邸へと目をやると、直ぐ様父様が近づいてきた。
 「遅いぞ凛子。早く入らんか。」
 「すみません、父様。」
 聞けば来客まであと数分。
 玄関口から入り、下駄をきちんと揃えてから客間に向かった。
 今まで入ったことがない上客用の客間。
 入れば桧の心地よい薫りがする。
 そして、私は淑やかに座布団に正座して、時を待つ。
 数刻して、「来客の方が、無事に着きました。」報告があった。
 待ちに待った来客、私の顔がパッと明るくなる。
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