旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
「凛子、俺と結婚するんだ。もう決定だ。異論は認めない。」
数秒だった。襖が開いて、見目麗しい男前が出てきて、そして、こう言ったのだ。
紺碧のスーツに漆黒のネクタイ、手入れのいき届いた純白のワイシャツが、上等の男だということをイヤというほど解らせてくる。
あまりにも立派すぎる男前は、私に近づいて、跪き手をとってきた。
「ここにいる時間は無い。もう出発するからな、凛子。」
「…っ!?なんで!?」
突然の展開に思考が追いつかない。
さっきから、凛子凛子って、呼ぶ口調が馴れ馴れしすぎるにも程があるし。
急速すぎるのでは、この男。
いくら、上客といえど、私を秒で娶るなんて…。
娶るなんて!?
そうこう考えて、事の重大さに気づく間に、私は男前に手を引かれて、迎えの車の前まで着ていた。