旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
 私の呟きが聞こえたのか、男前が私の方に身をのり出してきた。
 「気づいてくれた?凛子。」
 「…さすがに遅くはないか、見抜くのが。」
 昔とは随分と様変わりした、低くて大人な声色。
 私を見つめる視線も、幾多の経験を積んだ男性のものだった。
 でも、名残がある。私だけに向ける微笑みに。
 「何かに一筋になると、周りが見えなくなるところ…。凛子は、ちっとも変わらないな。」
 呆れてるけれども、愛されてるのが伝わる声のトーン。
 私の耳元を擽ってくる。
 「そ、そうだけど…!」
 爽やかな好青年となった麟斗君の眼差しを前に、つい言葉が詰まってしまう。
 イヤ…っ!ドキドキドキドキと、心臓がヒートアップして爆音をたて始める。
 私の人生に突如、セクシーな香りを纏う色男が現れたのだ。
 なんだか胸板が厚くないか、大人になった麟斗君。
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