旧知の名家ホテル王は懐妊した斜陽旅館令嬢を人生を賭けて愛し尽くす
 突如、車がブレーキをかけて、私は揺らいだ。のを、当たり前のように受け止める麟斗君。
 「………。まあ、もう夫婦になるからさ。」
 若干照れつつも、私を抱き寄せる手に力が籠っている彼。
 私は、引き寄せられるように、麟斗君の胸板に頭を寄せた。
 『ドッドッドッドッドッーーー………。』
 逞しくて体幹がしっかりしていそうな麟斗君なのに、心臓の鼓動はまるで初で繊細さがある。
 頭上を見上げると、目と鼻の先に麟斗君の顔がある。
 私は、そのまま彼の華やかな顔面を拝んでいた。
 彼の唇が動く。
 「そんな…上目使いして…。俺は…ーっ!」
 麟斗君は顔を紅潮させて、お互いに心臓の音がバクバクいうという、大人の洒落た恋愛とは程遠い、学生みたいなカップルとなっていた。
 「あの頃は、子供同士だったものね。」
 「懐かしいなー。」
 照れまくる麟斗君の無様な姿を面白がりながら、私は彼と出逢った頃を思い出した。
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