神山銀二の受難
お局様 神山銀二
お局様の襲来……
いや襲撃……
じゃない。
有難いお裾分けを無事やり過ごし、俺と芦原は安堵のため息をもらした。
お裾分けは(わざわざ花瓶に入れられた)白いユリの花だった。
(芦原に教わったけど)
そういや被害者の髪にもユリの花粉が付着していたなぁ……。
ぼんやり考えていたその時だった。
『先輩、コイツのこと何て呼んでるんですかあ?』
チビを正面に抱き上げた芦原の、ノー天気な声だった。
『チビ』
『うわっ。そのまんまっすね』
『……お前はなんて呼ぶのがいいんだよ?』
『ん〜、やっぱシローっすかね』
『お前もそのまんまやろが!』
脳天チョップ!!
『いってぇ。マジいたいっす』
芦原は片手で頭を押さえて間抜けな声を出す。
『あれっ?なんかシローのお腹んとこ、汚れてますね』
『あぁ。俺も気付いて風呂で拭いたんだけど落ちなかった……』
……まてよ。
『あーっ、先輩昨日帰れたんすねっ。
いいなぁ、俺も帰って風呂入りたいっす〜』
……もしかして。
『先輩?』
『芦原』
『はいっ?』
『鑑識行くぞ』
『へっ?』
俺はチビを抱き抱えた。
『チビの家を捜すぞ!』
『は、はいっ』
『時間がねぇな…。イチかバチか、芦原!
お前インターネットで、この手の捜索サイトを片っ端からあたってくれ』
『は、はい』
『チビの捜索情報が無かったら、預かってるとかなんとか、適当に書き込みしといてくれ』
『わ、わかりました』
『女の名前でな』
『は、はいいっ』
『頼むぞ!』
まだ状況がイマイチ呑み込めていない芦原を背に、俺は鑑識課へと走りだした。