神山銀二の受難
きおく
銀二が居ないから、一人でうろうろしていたら、小さい部屋の中から聞き覚えのある声がしてきた。
ドアの隙間から中を覗いたら、メガネをかけた人が座っていた。
芦原さんもいた。
メガネの人は記憶がなくなる前、一緒にいてくれた人だった。
この前、ユリの花の匂いをかいで記憶が全部戻った。
銀二と出会った日。
お腹が痛くて車で病気に連れていってもらった帰り道。
途中で女の人が車に乗り込んできた。
車は何か建物の中に入っていった。
メガネの人と女の人は車を降りて出ていった。
退屈だったから、
窓から様子を覗いていたら、女の人ともみ合っていて………。
なんだか怖くなって、
そしたらメガネの人が車に戻ってきたからびっくりして、開いた車のドアから飛び出したんだ。
そしたら一度捕まえられたけど、手足をバタバタさせて振り切った………。
ユリの匂いをかいだのはその時。
それから、あちこち逃げ回って、疲れてあの場所に倒れたんだ。