神山銀二の受難
悪くないこと
最近のチビは警察署に慣れてきたのか、目を離した隙にすぐどこかへ行ってしまう。
さっきも課長の机の下にいるのを見つけて、慌ててひっぱりだしたところだ。
課長の机の下には替えのカツラが隠してあるから見ちゃダメだ!
ってかこれから、こいつをどうしようか。
悩ましい。
あれこれ考えをめぐらせながら、チビを抱きかかえて廊下を歩いていたら、事件の被疑者が両脇を刑事に囲まれて歩いてきた。
突然、抱きかかえていたチビが飛び降りて、被疑者のもとへ駆け寄った。
被疑者は一瞬こちらを見たような気がしたが、
気にする様子もなく、そのまま通り過ぎていった。
それでもじっと被疑者を見つめるチビ。
しかし。
ふっと目を逸らし、俺の足元にすり寄ってきた。
それからじっと俺の顔を見て
『にゃあ』
と鳴いた。
『先輩。結局シローはどうするんっすか?』
後ろから芦原の声がした。
俺はチビを抱き抱えた。
『さぁ、どうするかなぁ。俺のアパートペット禁止だし……』
チビは丸い小さな目で俺を見ている。
頭を撫でてやったら気持ちよさげにごろごろと喉を鳴らした。
『……………。
まぁ、たまには引っ越すってのも悪くないよな』
神山銀二
三十七歳
独身
バツイチ
金無し暇無し
ヤクザ顔
どうやら受難はまだまだ続きそうだが、こいつと暮すのも
『悪くないよなぁ?』
『にゃぉん』
そうしてチビは満足気に尻尾を振った。