神山銀二の受難
捜査会議は雰囲気が重かった。
未だ有力な被疑者は浮かんでこない。
現場の野次馬にも共通人物はいない。
唯一の手がかりは遺体の頭髪に残っていた花粉らしい。ユリや菊なんかが検出されている。
しかし被害者の身元にも被疑者にも繋がらない。
今朝の遺体に関しては、二十代の若い女性、死因は首を絞められたことによる窒息死。
捜索願いの類とも一致しないところを見ると、被害者は歓楽街で働く風俗嬢かもしれない、というのが捜索本部の見解だった。
そういう訳で、重たい気持ちでデスクに戻ってくると、俺の気持ちとは裏腹に花が咲いたような賑やかさだった。
『あっ、神山さーん』
見れば交通課の婦警があつまってチビを取り囲んでいた。
『この子かわいいですねーっ』
『だっこしたぁい』
久しぶりに黄色い声が飛んできた。
俺にじゃないけど。
すると婦警の間から俺を見つけたチビは、座っていた椅子から飛び下りて、俺のもとに駆け寄ってきた。
仕方ないので抱き上げると、婦警達は一斉に
『うわぁー。以外に似合う』
……以外は余計だ。
ってか似合うも。
『ちょっとあなた達、さっさと駐禁締まりに行きなさい!』
騒ぎを嗅ぎ付けた、勤続二十五年目のお局様がやってきて花達を蹴散らしていった。
………。
取り敢えず、チビをまた椅子に座らせてやった。
こいつのせいで朝からなぁんか調子が狂う。
『うゎあっ。今朝の子だぁ。ってか先輩コイツどうしたんっすか?マジ可愛いっす』
そこには目を輝かせた芦原がいた……。