日替わりケーキとおしゃべりタイム
「あらー、すごく美味しいわ」

「本当だわ」

バームクーヘンを食べたお母さんとお姉ちゃんは、驚きの声をあげた。

「お口にあったのなら、よかったです」

そう言った井上くんは、ふと、お父さんに視線を移す。

お皿をじっと見つめていたお父さんは、フォクを手に取って、一口分に切り分ける。

パクッと口に入れた瞬間、一瞬だけ、顔の表情が緩んだ気がした。

その後、何も言わずに食べ続けるお父さん。あっという間に完食して、紅茶を飲んだ。

「飛鳥、俺の分食べていいよ」

耳元で、小さな声でそう呟くと、井上くんは、バームクーヘンの乗ったお皿を私の前に置いた。

そっか、甘いもの苦手だから…。

「ありがとう」

そう小さく呟いて、紅茶を飲むと、お姉ちゃんと目があった。

足を組んで紅茶を飲むお姉ちゃんは、私から視線を逸らさずにじっと見つめる。耐えられなくなったのは私の方で、ゆっくりとバームクーヘン視線を移した。

「優璃さんって、海外に住んでいるんですよね」

井上くんは、お姉ちゃんに明るい声のトーンで話しかけて、紅茶を一口飲んだ。

「ええ」

「海外暮らし、かっこいいなあ」

「あら、会社には、海外転勤は無いの?」

「いや、ありますけど、本当に実力のある人材が抜擢されるんで…」

そう言って、ちょっと苦笑いの井上くん。

ううん、謙遜してるだけで、井上くんだって抜擢される力はあると思う。

でも、そうなったら遠距離になっちゃうのか。

「それに、俺、大切な人のそばには出来るだけ近くにいたいので」










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