日替わりケーキとおしゃべりタイム
えっ…

「あら、まぁ」

驚いて井上くんの方を見ると、ちょうどお母さんの驚いた声が聞こえた。そのあと、お母さんが、ふふふっと笑った声が聞こえた。

「…んっ、んっ!」

突然、お父さんが咳払いをして立ち上がる。

「お、お父さん…?」

「井上くん、ちょっとこっちへ来なさい」

「はい」

井上くんは、お父さんの後をついていき、リビングを出て行った。

「大丈夫だと…思う?」

恐る恐るお母さんに聞くと、

「大丈夫よ」

何か心当たりがあるのか、そう即答して、食べ終わった食器を重ねてキッチンへと向かった。

残された私とお姉ちゃんとの間に微妙な沈黙が流れる。

私は、井上くんの分だったバームクーヘンをフォークで切り取って、口へと運ぶ。

「…相変わらず、甘やかされてるわね」

「えっ…?」

お姉ちゃんの言葉に、刺々しさがあり、ゆっくりとお姉ちゃんを見る。

綺麗な長い黒髪を背中側から胸元側へと持ってきて、紅茶を飲むお姉ちゃん。

「…まあ、あんたみたいに、どこか危なっかしいところがある方が、男は守ってあげなきゃって思うんでしょうね」

ふっと鼻で笑うお姉ちゃんに、何と答えればいいのか思い浮かばない。

どうして、いつもこんな感じになっちゃうんだろう。

「…直樹だってそうよ」

「直樹…?」

ここで、どうして直樹の名前が出てくるか分からなくて、困惑していると、お姉ちゃんは小さく息を吐いた。

「…そういうところよ。私と正反対」

あっ…

組んだ腕の指先を二の腕に、トントンとし始めた姿を見て、お姉ちゃんがイライラしていることを察する。

私は、ただ黙ってバームクーヘンを口へ運んだ。

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