日替わりケーキとおしゃべりタイム
もう一度、タバコを咥えて煙を吐き出す。

そういえば、婚約者の話、親父ちゃんと話しつけてあるよな。

あれ以来、その話は一切していない。つーか、婚約者の顔、俺知らないし。名前は…なんとなくはうっすら記憶にあるけど。

飛鳥のこと、親父に早めに紹介しとくか…。その前に、やるべきことがあるけれど。

もう一度、タバコを咥えて星空を見る。

飛鳥、驚くかな…。

どんな反応をするのか想像すると、顔がにやけてしまう。

くくくっ。

「社長夫人ではないな…」

俺は、飛鳥には、背伸びしてほしくない。あのままでいいんだ。

面倒な接待や、パーティーだって連れていく必要はない。

それは、俺の仕事だから。

仕事だって、続けたかったら続けていいだろうし、専業主婦として、家庭に入ってもいい。

飛鳥の理想に近い家庭が作れれば、俺にとってもそれが1番幸せだから。

母さんは…頑張りすぎだったんだよな。

気疲れした母の姿を思い出す。きっと嫌な言葉を耳にすることだってあったと思う。

それでも、社長の妻として、一歩下がったところでいつも役目を果たしていたのは、きっとそのポジションを失う怖さがあったからなんだと思う。

今だって…。

タバコを灰皿で潰して、リビングへと戻る。

スマホに飛鳥からメールが来ていた。

〝荷物多くなっちゃった〟

の文面と共に、パンパンになったボストンバックの写真が一枚添付されている。

くくくっ。

飛鳥らしい。

そう思うと、自然と顔がにやけていた。



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