日替わりケーキとおしゃべりタイム
「きみは知らなかったようだが、息子には、許嫁がいるんだ」

「許嫁…」

頭をハンマーで殴られたような衝撃がはしる。

井上くん、そんなこと、ひと言も言ってなかった。

「大企業の娘さんで、結婚すれば、我が社の利益にもなる。いずれは、息子がこの会社を引き継ぐことになる。安定した状態で引き継いでもらいたいからね」

つまり、私の存在が、井上くんと会社の将来にとっては邪魔だと言われているようなものだ。

悔しくて、情けなくて、俯いた私の視界がぼやけてくる。

トントン

ガチャッ

「失礼しま…えっ飛鳥?」

後ろから、私のよく知る、でも今は聞きたくなかった大好きな人の声が聞こえる。

私の表情を見て、色々察した井上くんは、みるみる表情が険しくなり、社長の前へと歩みを進めた。

持っていた資料を机の上に乱暴に置き、バンッと手を机に置いた井上くん。

「飛鳥は会社の件に関係ないって言っただろう?」

「関係ないとは言い切れん。現に、お前は許嫁との結婚を拒否しているだろう」

「当たり前だろう?俺、許嫁の件は随分前に断ってただろ、それを勝手に、会社の利益がだの、世間体がとか言ってうやむやにしてきたんだろ?」


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