日替わりケーキとおしゃべりタイム
「飛鳥、行こう」

井上くんは、社長を睨み付けると、私に手を引いて、すぐ向かい側の副社長室へと入った。

「お茶入れるから、座ってて」

「ありがとう…」

大きなふかふかのソファーに腰掛けて、お茶を淹れる井上くんの後ろ姿を見つめる。

私がいなければ、会社も井上くんもスムーズに話が進んでいたのかな…。

「ごめんな…。俺も、昨日の朝にこの話聞いて。急な展開すぎて、親父と話がついてなくって」

「…井上くんも、急だったんだね」

でも、どうしてこんなに急だったのか、疑問に思う部分もある。いくらなんでも、年末とか年度終わりに話の結論が出るような議題だと思うけど…。

「…はい、緑茶だけど。ここも昨日の深夜から使ってるから、全然お茶の種類もなくてさ」

「ううん、忙しいのに、ありがとう」

お茶を受け取って、一口飲む。少しだけ気持ちが落ち着いた気がする。

そういえば…

「元々の副社長は…?」

考えてみれば、最近全然名前を聞いていなかった。新年会の時には、しおりに顔写真が載ってた気がするけど…。

井上くんは、少しだけ間を置いて、私の目を見て申し訳なさそうに口を開く。

「…これ、公にはなっていないことで、先月の話なんだけど、急に辞表を提出したらしい。なんでも、他の大企業にヘッドハンティングされたらしく」

「えっ…そんなことになってたの?」

全然知らなかった。

「うん。俺も昨日聞かされた。正直言ってこの会社、結構今揺れ動いてる」

そう言った井上くんの表情から、事の深刻さが十分伝わってくる。



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