日替わりケーキとおしゃべりタイム
「やべ、もうこんな時間か」

腕時計を見て、そう呟いた井上くん。

「私も、そろそろ出勤するね」

副社長だし、予定だってみっちり詰まってるはず。あまり長居したら迷惑になっちゃう。

立ち上がって、バッグを肩にかけると、急に手首を掴まれて、体がくるっと向きを変えられた。

一瞬だけ、おでこに柔らかい感触を感じ、それが井上くんの優しいキスだと気がつくと、私の体温が上がった。

「ありがとう。会えて、元気出た。無理するなよ」

「うん…。井上くんも、無理しすぎないでね」

「おう」

爽やかな笑顔を向けてくれた井上くんに手を小さく振って、部屋を後にする。

まだおでこに感触が残っていて、心臓の鼓動は速いまま。

顔見れて、よかった…。私も、頑張らなくちゃ。

















「あら、まだ半分も食べてないじゃない」

お昼ご飯を一緒に食べていた佐藤先輩が、私の食べていたコンビニの冷やしそばを見て心配そうに言った。

「ちょっと食欲なくて…」

お腹は空いていると思っても、食べ始めるとちょっと胃の辺りがムカムカしてくる。

「ストレス溜まってるんじゃない?色々あったから」

心配そうな先輩に、私は愛想笑いしかできない。

「早退したら?」

「いえ、そこまでじゃないので…」

「じゃあ定時上がりね。今日はノー残業デーにしなさいよ?」

佐藤先輩は半ば強引にそう言い切ると、私に微笑みかけた。

首を横に触れるような雰囲気ではなく、素直に首を縦に振る。

「よろしい」

冗談めかした佐藤先輩に、私はほっと胸を撫で下ろした。これも先輩なりの優しさ。


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