日替わりケーキとおしゃべりタイム
俺はもう一度仕切り直すために、コーヒーをちょっとだけ飲んで気持ちを落ち着かせながら、言葉を選ぶ。

「本題に入る前に…聞いて欲しいんだけど」

「うん」

「俺の基準は、飛鳥が幸せになれるかどうかなんだけど…」

「…うん。なんとなくそれは気がついてる…」

「だから、今から話すことの根底にはこのことがあるってのは覚えておいて欲しいんだ」

井上くんが、頷いたことを確認して、スーツのポケットから名刺入れを取り出して、中から3枚の名刺を抜き取って井上くんの前に並べた。

名刺を見た井上くんが驚いた表情で顔を上げる。

「この会社って…」

「うん。どれも数年前から急激に成長して来てる会社。実は、新卒で就職した会社で一緒に働いた先輩や取引相手だった人たちが、今社長になってる」

そう説明すると、井上くんの目がさらに大きく開いた。

「待って、円堂くんって何者?」

「ただの見習い料理人?」

と答えて、ふっと笑うと、井上くんは困ったように笑った。

「昨日、3人と連絡とって、申し訳ないけど勝手にここの置かれてる状況を伝えたよ。その上で、助けをお願いした」

「円堂くん…」

井上くんは、副社長なのに、もうすでに涙目になっていて、俺はその様子に、これまで、いかに井上くんがたった1人でもがいていたのかを察する。

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