日替わりケーキとおしゃべりタイム
喫茶店の中は薄暗く、営業時間外。というよりも、2年前に閉店している。

明かりの漏れている、1番奥の厨房へと足をすすめると、足音に気がついた人物が、ひょこっと顔を覗かせた。

「飛鳥、久しぶり」

ほんわかとした優しい笑顔の円堂直樹に、私もつられて頬の筋肉が緩んでいく。

「だいぶご無沙汰だったもん…」

今思えば、残業に追われて、ここに来る時間すら全くなかった。

厨房の前のカウンター前の椅子に座って、頬杖をつき、エプロン姿の直樹をじっと見る。

「…失恋…?」

困ったように悲しさの混じった笑顔の直樹は、そう言うと、手元の泡立て器を手に取った。

「ふふっ。さすが」

「でも…そんなにショックは受けてなさそう」

天使のような優しい顔して、結構、ズバズバと言うのがこの幼馴染の正直なところ。

「…予想してたから…かな」

「そっか。…久々にきたんだし、食べていって。今から仕上げ」

そう言って、少量の生クリームを手際よく泡立てていく。

自分じゃ絶対的にできない俊敏な手首の動きに、心の底から尊敬する。

幼馴染の直樹は、昔からなんでもそつなくこなすパーフェクト男子だった。勉強もスポーツもちょっとやってみただけでできちゃう、私とは全く正反対。

だから、高校だって難関校にさらっと合格して、弓道で全国大会に行っちゃって、でもって、大学も超のつく有名大学に一般入試で入っちゃって、一流企業に就職。

だから、入社して2年で本人から退職したって聞いた時は、揶揄われているんじゃないかって驚いた。





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