日替わりケーキとおしゃべりタイム
「素敵なお母さんだね」

私の頭の中には、勝手に、豪邸の広々としたアイランドキッチンで、優雅にお菓子を作る女性と、大きなテーブルで幸せオーラ全開で食卓を囲む貴族の姿が創り上げられていく。

「…どうなんだろうな」

私の妄想とは裏腹に、苦笑いの井上くんは、アメリカンコーヒー飲んだ。

「…飛鳥の家族構成は?」

「私の家は、共働き。お父さんは会社員でお母さんは幼稚園の先生」

「お母さん幼稚園の先生なんだ?だから飛鳥がまっすぐ育ってるのかもな。兄弟いるの?」

「うん。5歳離れた姉が。もう随分前に国際結婚して、イギリスにいるの」

私とは正反対で、なんでも出来ちゃうお姉ちゃんは大きな壁にぶつかることもなく人生を楽しんでいる。

「井上くんは?兄弟は?」

そう聞き返すと、コーヒーを一口飲んで少し間を置いてから口を開いた井上くん。

「…いるよ?年子の弟が」

「弟さんいたんだ。確かに、井上くん、頼れるお兄ちゃんって感じする」

普段の接し方からそう思っていたけど、私の言葉に井上くんはあまり嬉しくなさそう。

「色々あって、疎遠になってるから、いい兄ではないんだよな、俺」

寂しげな表情を見せた井上くんに、私は余計なことを言ってしまったと思い、胸がギュッと締め付けられる。


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