日替わりケーキとおしゃべりタイム
「…懐かしいついでに、俺の昔話してもいい?」

「う、うん?」

井上くんは、ほっと息を吐いて、自分の前髪を掻き分ける。

「俺の母さん、毎日のようにお菓子作ってたって言っただろう?」

「うん」

「でもさ、ある日突然、作らなくなった」

「えっ…?」

「嫌々食ってたわけじゃなかったのに、本当に突然」

お母さんの方からお菓子作りやめたってこと?てっきり、甘いものが苦手になったから、作るの控えたんだと思ってた。

井上くんは、少し間を置いて、笑ってはいたけど、悲しげな瞳で私を見る。

「…弟が家に来たんだ」

弟…?

「今疎遠になってるって言ってた…?」

「うん。後で飛鳥に話すより、早めに話しておきたいから。驚くと思うけど、話し続けていい?」

私が頷くと、井上くんも小さく頷いた。

「…異母兄弟ってやつ。親父、隠し子いたんだって。中3の秋に突然連れてきてさ…」

隠し子…。

ドラマの中のような話が、現実に身近な人の家庭で起きていることに、頭がまだ追いつけない。

「…驚いた…よね?」

「うん。それなりに大人の話も理解できる年頃だったからね。すっげー複雑な気持ちになったのは覚えてる。でもさ、弟はすっごい性格良くて人懐っこくて可愛いやつだったから、俺はすぐ受け入れられたんだ」

懐かしそうに微笑む井上くんに、私もほっと胸をなでおろす。


< 40 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop