日替わりケーキとおしゃべりタイム
「でもさ、やっぱり母さんからしたら、受け入れ難い現実だったんだと思う。浮気されてたことに加えて、突然やってきた子どもを育てるなんてさ。最低な親父だよな」

「…」

私はかける言葉が見当たらず、無言で井上くんの様子を見つめる。

「…でも、母さんなりに、弟に罪はないって自分に言い聞かせて俺と弟を育ててくれた。でもさ、お菓子作る心の余裕なんて無かったんだよ」

だから、お菓子作らなくなったんだ…。

「弟だって、色々複雑な心境だったんだと思う。だからかな、高校の時バイトで貯めたお金持って、卒業と同時に家を出た。それっきり、家には帰ってきてない」

「そうだったんだ…」

「暗い話になって悪いな。でも、弟とは連絡は年に何回かとってるから、今度紹介する」

「うん」

井上くんと弟さんは仲が良いんだ。ちょっと安心。

「ちなみに、運が良ければ、学の店で遭遇できるかも。あそこは弟もお気に入りの場所だから」

「ふふっ。居心地の良い空間が一緒だなんて、やっぱり兄弟なんだね」

素直な気持ちだったから、自然と私の口から出た言葉。

井上くんは一瞬驚いた後、嬉しそうに微笑んだ。

「飛鳥に話して良かった」

井上くんはそう言って、もう一度微笑んだ。


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