日替わりケーキとおしゃべりタイム
「直樹、明日も午前中からバイトなんでしょ?」

「うん。まだまだ見習いだからね。覚えることいっぱい」

と言いながらも、どこかワクワクしてる気持ちが滲み出ていて、ちょっと羨ましくなる。

バイト先で、将来喫茶店を再開させるためのスキルを学んで、夜はここで試作品作り。

凄すぎる。

直樹がオーブンの扉を開けると、ふわっと甘い香りに包み込まれた。

「いい匂い」

「そう?これは冷まして、明日の試作品作りに使う分だよ」

「明日は、何作るの?」

「んー…まだ未定。だけど、もし時間できたら、食べにきてよ」

「うん。どうなるか分からないけど、覚えておく」

本当に、来れるかどうか約束できないのが、私のダメなところなんだと思う。

来るために、仕事を終わらせようって思えない自分の力量に、心の中でため息をつく。

ガトーショコラの最後の一切れを口に入れて、味わい、紅茶を飲み干して立ち上がった。

「とっても美味しかった。ご馳走様でした」

肩にバックを掛けて、体の向きを変えようとした時、

「これ、試食のお礼」

私の手にサッと小さなものが強制的に握らされた。

「…飴?」

「最近、空気も乾燥してるし、喉お大事に」

はにかんだ直樹の笑顔につられて、私も微笑む。

「相変わらず、気の利く男子」

「男子…でもないけどな。アラサーだぞ?」

「ひゃー…痛い現実」

お互い冗談めかして、そう言葉を交わし、私はお店を後にした。
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