日替わりケーキとおしゃべりタイム
「親父が心労で倒れたんだ…」

えっ…。

「俺とのケンカも原因だったと思う。さすがに罪悪感抱いて、見舞いに行ったら…親父がベットの上で俺に頭下げたんだ…。会社継いでくれって…」

そんなことがあったんだ…。

「その瞬間、親父の体がひと回り小さくなったように感じた。…まだ許せないことはあるけど…でも、俺を育ててくれてたのは確かで…父親だっていう事実はある…。そう思ったら…返事をしていたんだ」

切なそうな表情の井上くんに、私はかけていい言葉が見つからず、ただ視線を受け止めることしかできなかった。

「…正直、俺に社長が務まるとは思えない。だけど…俺の代で台無しにするわけにはいかないとは思ってる。だから、今、親父の影響のない環境で、もがいてスキル身に付けてる最中…。しんどい時もあるよ…。だけど…」

そこで言葉を止めた井上くんと再び視線が交わる。

「飛鳥が隣にいてくれると、乗り越えられる気がする…」

「えっ…?」

ガシャンッ

「あっ、ご、ごめん」

私に向けられた言葉驚いた拍子に、湯呑みをこぼしてしまい、慌てておしぼりで拭き取る。

井上くんも一緒に拭いてくれて、ひと段落すると、おしぼりをたたみ直す私の手に、井上くんが手を重ねた。

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