日替わりケーキとおしゃべりタイム
『直樹くんって、すごくかっこいいよね』

出勤初日、というか、会った瞬間面と向かって、キラキラ輝く目で見つめられた俺は、気恥ずかしくなった。

俺よりも、ずっとずっと経歴としては先輩なのに、いつも俺の近くに寄ってきて、まるで子犬のように思えた。

でも、そんなりっちゃんだけど、結構複雑な事情も抱えていることも知った。

飛鳥の彼氏だって、多分いろいろ抱えているんだと思う。

「そういえば、常連のお客さん達が心配してたよ?」

「急に休んだらそうなるよね。ちょっと風邪気味ってことになってるんだって?」

大袈裟にしたくないって相談したら、店長が考えてくれた理由。

「うん。でも風邪気味は通用しにくい日数になっちゃったからね」

「確かに。でも、もう少しで退院できるから。どうにか誤魔化しきれるかな?」

店長から貰ったクッキーを一枚食べる。

あっ、うまい。

「りっちゃんも食べる?」

「あっ、俺、試食で食べたから」

そう言ってコーヒーを飲んだりっちゃん。

「じゃあ、そろそろ帰るね。元気そうでよかった」

「うん。ありがとうね。店長にもクッキーごちそうさまって伝えといて」

「うん」

パタンという扉の音が響く静かな病室。

ふーっと息を吐いてベットの上に仰向けになる。

真っ白な天井を見つめながら、飛鳥のさっきの泣き顔が浮かんだ。
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