日替わりケーキとおしゃべりタイム
泣かせるつもりなかったんだけどな…。

飛鳥にもちょっと風邪をこじらせたって言えばよかったのかな。いや、それでも飛鳥は心配しただろうな。

俺にとって、飛鳥はすごく大切な存在で、きっとそれは恋愛感情を超えた言葉では表せないものな気がする。

俺だって、それなりに、相手に好意的な感情を持って付き合ってきた。その人のことはちゃんと好きという感情がその時はある。

でも、ふとした時に、隣にいることで自分が無理をしていることに気がついて、終わりを迎える。

きっと、相手の理想の姿で居続けないといけないと自分自身にプレッシャーをかけてしまうからなんだと思う。

だから、昔からありのままの自分を曝け出してきた飛鳥の前では肩の力をふっと抜くことができるし、すごく自然体でいられる安心感がある。

それに、飛鳥は、俺だけじゃなくて誰のことでも、その人自身のことを見ようとして、受け入れてくれる凄さがある。

飛鳥は自分のことを不器用だって言っているけれど、俺からしてみれば器用に思えてしまう。

「…どこで勇気を振り絞ればよかったんだろう…」

社会人になって、時々思うことだった。もしかしたら、それこそ、飛鳥に想いを告げて恋人同士になるタイミングがあったのかもしれない。

だけど、俺はそんなこと見ようとさえしてこなかった。

気がついたら、想いを伝えたらこの関係が崩れてしまうのではないか、飛鳥を幸せにできないのではないか、泣かせてしまうのではないか…そんなことばかり頭をよぎって、今のこの安全な距離感のままでいる。






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