本当の名前が 聞きたくて………
未知さんと別れた後、俺は家に帰った。
シルさんとは会えない。
おれは疲れてきていた。
体力的にも精神的にも。
シルさんと会える方法が無いからだ。
唯一会える可能性があるのはあの公園だ。
会いたい衝動を抑えきれない俺は
明日も行こうと疲れ切った体と心に言い聞かせる。
じんのと晩ご飯を食べてお風呂に一緒に入って
寝かしつける。
そしていつものルーティン通り
俺はあの公園に出掛ける。
今日はいつもより寒い日だった。
春休みに入って暖かい日が続いていたが寒気が襲ってきた。
今日はいつもより星空がきれいそうだ。
シルさんと一緒に見た星空を思い出す。
廃墟化しつつあるニュータウンへ繋がる坂道を
歩き続ける。
向こうから車のヘッドライトが見える。
少しまぶしい。
車が近づいてくるとさらにヘッドライトがまぶしく見える。
なぜかヘッドライトがまぶしくて目がくらむときは
イラッとして車の中をのぞき込んでしまう。
「えっ、未知さん...?」
一瞬見えた助手席に座っていたのは未知さんのようだった。
暗かったので人違いかもしれない。
車の後ろ姿を追っかけてみてしまう。
(見間違えかなぁ...)
なぜかちょっとドキドキする。
車が見えなくなった後もそこに立ち止まったままだった。
(まあ、今度聞けば良いか)
俺は公園に向かって歩き始める。
やはり今日もシルさんはいない。
それでも公園で時間を過ごす。
ブルブル...ブルブル...
携帯がポケットの中で震える。
(ももさんからだ)
「じょうくん、元気にしてたぁ?」
ももさんの大きな声が耳元で響く。
「元気じゃ無いです。シルさんになかなか会えないです」
シルさんとのことを知っているのはももさんだけだ。
だからももさんは唯一本音で話せる相手だ。
「じょうくん、元気が出るかわからないけど
シルちゃんの目撃情報が入ったよ」
「どこですか!」
「こらこら、落ち着いて。シルちゃんのことになったら
見境が無いんだから」
「すいません...」
「じょうくん、私のお店の近くにある和菓子屋さん知ってる?」
「そういうお店はよく知らなくて」
「『藍』ってお店で桜餅とおはぎが有名なの。
そこのお店でうちのお店の女の子が
シルちゃん見かけたって言ってるの」
「和菓子屋『藍』ですね。毎日立ち寄ってみますね」
「じょうくん、毎日って......
公園にはどれくらいの頻度で行ってるの」
「毎晩欠かさず行ってます。春休みからは日中も行くようにしています」
「じょうくん、本当に好きなのね。
青春だねぇ。お姉さんも精一杯バックアップするね。
じょうくん、かわいすぎるからお姉さんに鞍替えしても良いんだぞ?」
「それは無いです!」
悪いようにとらえられないように明るくはっきり言う。
「もう、じょうくんったら」
お互い冗談だとわかっているから少し楽しい感じになる。
(ももさんは落ち込んでいる俺を励まそうと
あえて冗談を言ってくれているんだ)
「おれもなにか進展があればももさんには報告します。
じゃあ、もう少しここでシルさんが現れないか待ってみます」
「今日、寒いから風邪引かないでね」
公園で夜中の1時まで過ごす。
やはり会えない。
会えなさすぎて心が折れそうになる。
「明日は合宿かぁ。
ここにはこれないけど気分転換になったらいいな」
「さあ、帰ろう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
合宿初日、まずは最寄り駅にみんなを迎えに行く。
「おまえ、なんだその言い方は!
ちょっとかわいいからっていい気になるなよ」
駅の改札口の付近から声が聞こえてくる。
「あっ。またなの...」
おれは小さくため息をつく。
未知さんとくるみが昨日とは違う男の人達に絡まれている。
想像が付く。男がなんぱして、未知さんが悪態をついて
逆ギレされているのがいまの状況だろう。
すぐさま助けに行く。
「お姉ちゃん、もうすぐパパとママが来るって」
「なんだ。家族連れか。チッ!」
男達はその場から離れていく。
「じょうくん、助けてくれてありがとう」
くるみがうれしそうにお礼を言う。
「………」
みちは黙ったままだった。
「工藤さん、俺にお礼は?」
おれはみちさんに意地悪を言う。
「あなたに助けてもらわなくても私がなんとかしたわ」
昨日と違っていつもの未知さんだ。
くるみがいるから本当の未知さんが出せないのかなぁ。
「そんな言い方しかできないから絡まれた後に
火に油を注ぐことになるんですよ」
「そんなことぐらいわかっているわ。
でも助けてくれてありがとう。一応お礼は言っとくわ」
くるみは仲よさそうに話す二人に少しヤキモチをやく。
そして杏子先生が到着した。
「おまたせ~。みんな。じゃあ藍原くんの家にいきましょう」
みんなで家に向かって歩き出した。
「ありがとう」
小さな声で耳元で未知さんが俺にささやく。
おれは微笑ん返事をする。
未知さんは照れくさそうに小走りに杏子先生に並ぶ。
その様子をくるみは見てしまっていた。
(工藤さん、じょうくんに気がある......)
みちさんと俺との関係性に変化があったことに
気付くくるみ。
そしてじょうくんが別れてからさらに遠くに離れていってしまう不安がくるみを襲う。
シルさんとは会えない。
おれは疲れてきていた。
体力的にも精神的にも。
シルさんと会える方法が無いからだ。
唯一会える可能性があるのはあの公園だ。
会いたい衝動を抑えきれない俺は
明日も行こうと疲れ切った体と心に言い聞かせる。
じんのと晩ご飯を食べてお風呂に一緒に入って
寝かしつける。
そしていつものルーティン通り
俺はあの公園に出掛ける。
今日はいつもより寒い日だった。
春休みに入って暖かい日が続いていたが寒気が襲ってきた。
今日はいつもより星空がきれいそうだ。
シルさんと一緒に見た星空を思い出す。
廃墟化しつつあるニュータウンへ繋がる坂道を
歩き続ける。
向こうから車のヘッドライトが見える。
少しまぶしい。
車が近づいてくるとさらにヘッドライトがまぶしく見える。
なぜかヘッドライトがまぶしくて目がくらむときは
イラッとして車の中をのぞき込んでしまう。
「えっ、未知さん...?」
一瞬見えた助手席に座っていたのは未知さんのようだった。
暗かったので人違いかもしれない。
車の後ろ姿を追っかけてみてしまう。
(見間違えかなぁ...)
なぜかちょっとドキドキする。
車が見えなくなった後もそこに立ち止まったままだった。
(まあ、今度聞けば良いか)
俺は公園に向かって歩き始める。
やはり今日もシルさんはいない。
それでも公園で時間を過ごす。
ブルブル...ブルブル...
携帯がポケットの中で震える。
(ももさんからだ)
「じょうくん、元気にしてたぁ?」
ももさんの大きな声が耳元で響く。
「元気じゃ無いです。シルさんになかなか会えないです」
シルさんとのことを知っているのはももさんだけだ。
だからももさんは唯一本音で話せる相手だ。
「じょうくん、元気が出るかわからないけど
シルちゃんの目撃情報が入ったよ」
「どこですか!」
「こらこら、落ち着いて。シルちゃんのことになったら
見境が無いんだから」
「すいません...」
「じょうくん、私のお店の近くにある和菓子屋さん知ってる?」
「そういうお店はよく知らなくて」
「『藍』ってお店で桜餅とおはぎが有名なの。
そこのお店でうちのお店の女の子が
シルちゃん見かけたって言ってるの」
「和菓子屋『藍』ですね。毎日立ち寄ってみますね」
「じょうくん、毎日って......
公園にはどれくらいの頻度で行ってるの」
「毎晩欠かさず行ってます。春休みからは日中も行くようにしています」
「じょうくん、本当に好きなのね。
青春だねぇ。お姉さんも精一杯バックアップするね。
じょうくん、かわいすぎるからお姉さんに鞍替えしても良いんだぞ?」
「それは無いです!」
悪いようにとらえられないように明るくはっきり言う。
「もう、じょうくんったら」
お互い冗談だとわかっているから少し楽しい感じになる。
(ももさんは落ち込んでいる俺を励まそうと
あえて冗談を言ってくれているんだ)
「おれもなにか進展があればももさんには報告します。
じゃあ、もう少しここでシルさんが現れないか待ってみます」
「今日、寒いから風邪引かないでね」
公園で夜中の1時まで過ごす。
やはり会えない。
会えなさすぎて心が折れそうになる。
「明日は合宿かぁ。
ここにはこれないけど気分転換になったらいいな」
「さあ、帰ろう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
合宿初日、まずは最寄り駅にみんなを迎えに行く。
「おまえ、なんだその言い方は!
ちょっとかわいいからっていい気になるなよ」
駅の改札口の付近から声が聞こえてくる。
「あっ。またなの...」
おれは小さくため息をつく。
未知さんとくるみが昨日とは違う男の人達に絡まれている。
想像が付く。男がなんぱして、未知さんが悪態をついて
逆ギレされているのがいまの状況だろう。
すぐさま助けに行く。
「お姉ちゃん、もうすぐパパとママが来るって」
「なんだ。家族連れか。チッ!」
男達はその場から離れていく。
「じょうくん、助けてくれてありがとう」
くるみがうれしそうにお礼を言う。
「………」
みちは黙ったままだった。
「工藤さん、俺にお礼は?」
おれはみちさんに意地悪を言う。
「あなたに助けてもらわなくても私がなんとかしたわ」
昨日と違っていつもの未知さんだ。
くるみがいるから本当の未知さんが出せないのかなぁ。
「そんな言い方しかできないから絡まれた後に
火に油を注ぐことになるんですよ」
「そんなことぐらいわかっているわ。
でも助けてくれてありがとう。一応お礼は言っとくわ」
くるみは仲よさそうに話す二人に少しヤキモチをやく。
そして杏子先生が到着した。
「おまたせ~。みんな。じゃあ藍原くんの家にいきましょう」
みんなで家に向かって歩き出した。
「ありがとう」
小さな声で耳元で未知さんが俺にささやく。
おれは微笑ん返事をする。
未知さんは照れくさそうに小走りに杏子先生に並ぶ。
その様子をくるみは見てしまっていた。
(工藤さん、じょうくんに気がある......)
みちさんと俺との関係性に変化があったことに
気付くくるみ。
そしてじょうくんが別れてからさらに遠くに離れていってしまう不安がくるみを襲う。