本当の名前が 聞きたくて………
突然すぎて。
「今日このあと一緒にいてくれる?」
また俺の時間を奪っていく。
景色も奪っていく
目の前しか見えない。
素敵な小悪魔がそこにはいた。
おれはなにも考えられなかった。
何秒たったのだろうか。その感覚さえわからない。
「ドキッとしちゃった?......
お姉さんまたいじめちゃったね」
はにかみながらシルさんは話しかけてきた。
「はい。ドキッとしました。でも心地よかったです」
素直に答えてしまった。
彼女のくるみはからかうことも甘えることもしない。
自立していてしっかりしている。
お互いに尊重し合っている関係だ。
くるみとは男女の関係と言うよりも
人と人との関係のような気もする。
妹のじんのはお兄ちゃん大好きっ子で甘えてばかりくる。
俺以外の男の人に懐いているのは見たことがない。
訳あってじんのは俺が一生面倒をみるつもりだ。
俺の人生の中で女性に意地悪されたり
からかわれたりしたことがない。
初めての経験に心地よさを感じたというのはうそではない。
むしろ甘えてもいいよって言われているような気がした。
「心地いいってじょうくん、M?」
面白おかしくからかうようにシルさんは言う。
「シルさんが素敵なSなんですよ」
「ふふっ、なにそれ。でも悪くないかも...」
「でも女の子はみんなMなんだよ......」
星空に吸収されるかのようにか弱い声でシルさんは
何かを思い出すように言った。
その言葉がおれの脳を反芻する。
シルさんはSではなくてMなんだ。
本当のシルさんはどんな人なんだろうか。
「じょうくん、いまから少しだけお話しよっ」
「いいですよ。そのかわり、素敵なMも見せてくださいよ」
「いじわる......」
恥ずかしそうに、でもそういうの嫌いじゃないという気持ちが伝わってくる。
表情も照れながらも少しうれしそうに見える。
なんてかわいい声でかわいい表情をするんだろうか。
そこには『素直な小悪魔』がいた。
「じゃあ、お話ししよっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シルさんとはどれくらいの時間話したのだろうか。
シルさんが子供の頃、そこの団地に住んでいて
よくこの公園に来ていた話を聞いた。
お父さんと妹と3人で昼も夜も来ていたとのこと。
今日、俺たちがシルさんのキャバクラに行った経緯を
話したりもした。
他愛のない話をしていても楽しかった。
時々見てしまうシルさんの横顔。
楽しそうに笑いながら話してくれている。
「おれ、お店のシルさんより今のシルさんの方がすきだな」
ふとそんなことを言ってしまった。
「どうして?」
「お店にいるシルさんはどこか役を演じている感じがしてさ。
そんなシルさんを良いって言う人も多くいそうだけど
無理してるように見えて」
「私、お店では人気者なんだぞ」
「俺は人気者のシルさんよりも
普段のシルさんの方が好きになるかな
好きになる人は俺にとっての飾り物じゃないしね」
「ありがとう......」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でシルは答えた。
「ねえ、お店で私と約束したこと覚えてる?」
「えっ?何か約束したっけ」
「したよぉ。もう忘れちゃったのね。
私の事なんてどうでもいいのね」
小悪魔モードでじょうのことをからかう。
「なんだったっけ?でも約束したなら守るよ。
約束したことは守りたい性格だから」
「高校生って言うことを黙っててあげるから
今日だけお姉さんの言うことを聞いてもらう約束だよ」
「お店の中だけの話じゃないの?」
「まだ今日だよ」
シルさんは俺の顔をのぞき込むように甘えるように
でも意地悪な表情で迫ってくる。
「たしかにまだ今日だね。わかった。なにを聞けば良い?」
「腕まくらして」
「えっ」
「わたしね、小さい頃お父さんに
ここでよく腕まくらしてもらったの。
腕まくらしながら星空を見るのが大好きだったの。
ちょっとそれを思い出しちゃってしたくなっちゃった」
表情を見れば恥ずかしそうに照れながら
話してくれているけど
本当に腕まくらが好きなんだろうなと思えた。
腕まくらは恥ずかしいことではなくて
大事な思い出なんだと思えた。
「いいですよ。腕まくらは妹によくやっているので
慣れてます」
「じゃあ、そこの芝生が私の一番好きな特等席。
冬の星空はよく見えて好きなの」
シルは立ち上がり歩き始める。
「あっ!でも服が汚れますよ」
「いいの。今日はもう着飾る必要がないから」
シルは上半身だけ振り返りうれしそうに言った。
すっきりした表情でニコッと笑っていた。
「ほんとにじょうくんうでまくら上手。
お姉さんびっくりだ」
「ほぼ毎日妹を寝かしつけるときに腕まくらしているので」
「そんな優しいお兄ちゃん、妹さんがうらやましいなぁ」
「いろいろ事情があって......」
「そうだよね。みんないろんな事情があるからね。
でもじょうくんの優しさは......」
「なに?」
「なんでもない」
「気になるよ」
手に力がはいる。
「腕まくらの心地が悪くなったぞ」
「ごめん。これでどう?」
「さいこう。少し星空見るね」
「もちろん。どうぞ」
優しく返事をする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は気になって横で星空を見ているシルさんの横顔を見てしまう。
すごく澄んだ目で星空を眺めている。
シルさんにもいろいろと悩みがあるんだろうなぁと思う。
10分くらいは経っただろうか。
腕まくらをするのは嫌いじゃないからシルさんがしたいだけ
続けても良いと思っている。
「じょうくん、うで痛くない?」
「ぜんぜん痛くないですよ。」
「無理してない」
「無理してませんよ。本当に」
「ありがとう」
「悩みが解決するまでどうぞ」
「いじわる。でもじょうくんのうでまくら好きだよ」
俺の腕まくらは素敵な小悪魔と素直な小悪魔を生成するのか?
一気にドキドキする。
ドキドキがばれないように小さく深呼吸して抑えようとする。
シルさんはあんなことを言って自分でドキドキしないのか。
なんて小悪魔なんだろう。
シルさんが体勢を変えた。
また手に力が入ってしまってシルさんの心地が
悪くなってしまったのかと気にする。
手の力を抜くことに集中する。
ドキドキも抑えなければ。
やることがいっぱいだ。
おちつけ、おれ。
目をつむりバレないように静かに深呼吸をする。
「すぅー、ふぅー」
「すぅー、ふぅー」
「すぅー、ふぅー」
ふと腕が軽くなった。シルさんの頭が腕から離れた。
でも起き上がるような大きな動作には感じなかった。
気になってシルさんの方を見る。
一瞬だった。
シルさんの唇が俺の鼻先に触れる。
『ちゅっ』っていうような音も無いようなそっと触れる、
そして一瞬だけだった。
なにが起こったのかもわからない。
何かが起こったのは確かだ。
唇にしてくれたらキスだって認識できるのに
鼻にされたキスはどう認識すれば良いのだろうか......
なんだろうこれは、なんて表現したら良いんだろう。
なんて話せば良いんだろう。
シルさんの目的がわからない。
告白?好意?小悪魔?なにか助けて欲しい?
なんにもわからない。
でもわかるのは俺の心がシルさんでいっぱいになっていることだけだ。
シルさんはまた星空を見ている。
まるで何事も無かったように......
キスされたのは俺の勘違いで実際はなにもされていない?
俺はこのあとどうすればいい?
.......
俺はなにもできなかった。
もう何分経ったかわからない。長いのか短いのか。
なにも考えられなくて、
でも勝手に湧き上がってくるのはシルさんのことばかり。
シルさんが起き上がる。
「じょうくん、帰ろっか」
「うん」
なにも考えられない俺は返事しかできなかった。
近くの大通りまで降りていき、2人でタクシーに乗った。
俺の家の近くの大通りでタクシーから降りた。
シルさんはそのままタクシーに乗って帰って行った。
公園からタクシーを降りるまでほぼ会話は無かった。
帰り道、おれはずっとあの出来事を反芻していた。
なぜ?
どうしたらいい?
どうして欲しいの?
なにが答え?
恋愛感情はあるの?
いじわるがしたかったの?
お姉さんの遊び?
シルさん?シルさん。シルさん!
頭の中はシルさんでいっぱいになっていた。
シルさんのことしか考えられない。
こんな気持ちでくるみと付き合っているのは失礼だ。
くるみに申し訳ない。
シルさんとどうかなりたいとか思わないが
くるみとは別れないといけない。
俺の心はくるみと別れることを決める。
また俺の時間を奪っていく。
景色も奪っていく
目の前しか見えない。
素敵な小悪魔がそこにはいた。
おれはなにも考えられなかった。
何秒たったのだろうか。その感覚さえわからない。
「ドキッとしちゃった?......
お姉さんまたいじめちゃったね」
はにかみながらシルさんは話しかけてきた。
「はい。ドキッとしました。でも心地よかったです」
素直に答えてしまった。
彼女のくるみはからかうことも甘えることもしない。
自立していてしっかりしている。
お互いに尊重し合っている関係だ。
くるみとは男女の関係と言うよりも
人と人との関係のような気もする。
妹のじんのはお兄ちゃん大好きっ子で甘えてばかりくる。
俺以外の男の人に懐いているのは見たことがない。
訳あってじんのは俺が一生面倒をみるつもりだ。
俺の人生の中で女性に意地悪されたり
からかわれたりしたことがない。
初めての経験に心地よさを感じたというのはうそではない。
むしろ甘えてもいいよって言われているような気がした。
「心地いいってじょうくん、M?」
面白おかしくからかうようにシルさんは言う。
「シルさんが素敵なSなんですよ」
「ふふっ、なにそれ。でも悪くないかも...」
「でも女の子はみんなMなんだよ......」
星空に吸収されるかのようにか弱い声でシルさんは
何かを思い出すように言った。
その言葉がおれの脳を反芻する。
シルさんはSではなくてMなんだ。
本当のシルさんはどんな人なんだろうか。
「じょうくん、いまから少しだけお話しよっ」
「いいですよ。そのかわり、素敵なMも見せてくださいよ」
「いじわる......」
恥ずかしそうに、でもそういうの嫌いじゃないという気持ちが伝わってくる。
表情も照れながらも少しうれしそうに見える。
なんてかわいい声でかわいい表情をするんだろうか。
そこには『素直な小悪魔』がいた。
「じゃあ、お話ししよっ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シルさんとはどれくらいの時間話したのだろうか。
シルさんが子供の頃、そこの団地に住んでいて
よくこの公園に来ていた話を聞いた。
お父さんと妹と3人で昼も夜も来ていたとのこと。
今日、俺たちがシルさんのキャバクラに行った経緯を
話したりもした。
他愛のない話をしていても楽しかった。
時々見てしまうシルさんの横顔。
楽しそうに笑いながら話してくれている。
「おれ、お店のシルさんより今のシルさんの方がすきだな」
ふとそんなことを言ってしまった。
「どうして?」
「お店にいるシルさんはどこか役を演じている感じがしてさ。
そんなシルさんを良いって言う人も多くいそうだけど
無理してるように見えて」
「私、お店では人気者なんだぞ」
「俺は人気者のシルさんよりも
普段のシルさんの方が好きになるかな
好きになる人は俺にとっての飾り物じゃないしね」
「ありがとう......」
聞こえるか聞こえないかぐらいの声でシルは答えた。
「ねえ、お店で私と約束したこと覚えてる?」
「えっ?何か約束したっけ」
「したよぉ。もう忘れちゃったのね。
私の事なんてどうでもいいのね」
小悪魔モードでじょうのことをからかう。
「なんだったっけ?でも約束したなら守るよ。
約束したことは守りたい性格だから」
「高校生って言うことを黙っててあげるから
今日だけお姉さんの言うことを聞いてもらう約束だよ」
「お店の中だけの話じゃないの?」
「まだ今日だよ」
シルさんは俺の顔をのぞき込むように甘えるように
でも意地悪な表情で迫ってくる。
「たしかにまだ今日だね。わかった。なにを聞けば良い?」
「腕まくらして」
「えっ」
「わたしね、小さい頃お父さんに
ここでよく腕まくらしてもらったの。
腕まくらしながら星空を見るのが大好きだったの。
ちょっとそれを思い出しちゃってしたくなっちゃった」
表情を見れば恥ずかしそうに照れながら
話してくれているけど
本当に腕まくらが好きなんだろうなと思えた。
腕まくらは恥ずかしいことではなくて
大事な思い出なんだと思えた。
「いいですよ。腕まくらは妹によくやっているので
慣れてます」
「じゃあ、そこの芝生が私の一番好きな特等席。
冬の星空はよく見えて好きなの」
シルは立ち上がり歩き始める。
「あっ!でも服が汚れますよ」
「いいの。今日はもう着飾る必要がないから」
シルは上半身だけ振り返りうれしそうに言った。
すっきりした表情でニコッと笑っていた。
「ほんとにじょうくんうでまくら上手。
お姉さんびっくりだ」
「ほぼ毎日妹を寝かしつけるときに腕まくらしているので」
「そんな優しいお兄ちゃん、妹さんがうらやましいなぁ」
「いろいろ事情があって......」
「そうだよね。みんないろんな事情があるからね。
でもじょうくんの優しさは......」
「なに?」
「なんでもない」
「気になるよ」
手に力がはいる。
「腕まくらの心地が悪くなったぞ」
「ごめん。これでどう?」
「さいこう。少し星空見るね」
「もちろん。どうぞ」
優しく返事をする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は気になって横で星空を見ているシルさんの横顔を見てしまう。
すごく澄んだ目で星空を眺めている。
シルさんにもいろいろと悩みがあるんだろうなぁと思う。
10分くらいは経っただろうか。
腕まくらをするのは嫌いじゃないからシルさんがしたいだけ
続けても良いと思っている。
「じょうくん、うで痛くない?」
「ぜんぜん痛くないですよ。」
「無理してない」
「無理してませんよ。本当に」
「ありがとう」
「悩みが解決するまでどうぞ」
「いじわる。でもじょうくんのうでまくら好きだよ」
俺の腕まくらは素敵な小悪魔と素直な小悪魔を生成するのか?
一気にドキドキする。
ドキドキがばれないように小さく深呼吸して抑えようとする。
シルさんはあんなことを言って自分でドキドキしないのか。
なんて小悪魔なんだろう。
シルさんが体勢を変えた。
また手に力が入ってしまってシルさんの心地が
悪くなってしまったのかと気にする。
手の力を抜くことに集中する。
ドキドキも抑えなければ。
やることがいっぱいだ。
おちつけ、おれ。
目をつむりバレないように静かに深呼吸をする。
「すぅー、ふぅー」
「すぅー、ふぅー」
「すぅー、ふぅー」
ふと腕が軽くなった。シルさんの頭が腕から離れた。
でも起き上がるような大きな動作には感じなかった。
気になってシルさんの方を見る。
一瞬だった。
シルさんの唇が俺の鼻先に触れる。
『ちゅっ』っていうような音も無いようなそっと触れる、
そして一瞬だけだった。
なにが起こったのかもわからない。
何かが起こったのは確かだ。
唇にしてくれたらキスだって認識できるのに
鼻にされたキスはどう認識すれば良いのだろうか......
なんだろうこれは、なんて表現したら良いんだろう。
なんて話せば良いんだろう。
シルさんの目的がわからない。
告白?好意?小悪魔?なにか助けて欲しい?
なんにもわからない。
でもわかるのは俺の心がシルさんでいっぱいになっていることだけだ。
シルさんはまた星空を見ている。
まるで何事も無かったように......
キスされたのは俺の勘違いで実際はなにもされていない?
俺はこのあとどうすればいい?
.......
俺はなにもできなかった。
もう何分経ったかわからない。長いのか短いのか。
なにも考えられなくて、
でも勝手に湧き上がってくるのはシルさんのことばかり。
シルさんが起き上がる。
「じょうくん、帰ろっか」
「うん」
なにも考えられない俺は返事しかできなかった。
近くの大通りまで降りていき、2人でタクシーに乗った。
俺の家の近くの大通りでタクシーから降りた。
シルさんはそのままタクシーに乗って帰って行った。
公園からタクシーを降りるまでほぼ会話は無かった。
帰り道、おれはずっとあの出来事を反芻していた。
なぜ?
どうしたらいい?
どうして欲しいの?
なにが答え?
恋愛感情はあるの?
いじわるがしたかったの?
お姉さんの遊び?
シルさん?シルさん。シルさん!
頭の中はシルさんでいっぱいになっていた。
シルさんのことしか考えられない。
こんな気持ちでくるみと付き合っているのは失礼だ。
くるみに申し訳ない。
シルさんとどうかなりたいとか思わないが
くるみとは別れないといけない。
俺の心はくるみと別れることを決める。