彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】
 菜摘を大切にする彼がきっと慰めただろう。ほだされて、自分を捨てる気なのか?

 俊樹は怖くなった。菜摘が自分に背を向けて出て行くのではないかとおびえはじめた。

 急いで机を離れると、出て行こうとする彼女をうしろから羽交い締めにした。菜摘はされるがままだ。

 「菜摘。すまない。大人げなかった。泣かせるつもりじゃなかったんだ。許してくれ」
 
 彼女の身体を自分のほうに向けると、顔をのぞき込む。うつろな目で自分を見つめ、口を開いた。

 「業務部の仕事を取れば、別れることになるんですね?」

 俊樹は驚いた。昏い目で自分を見ている。こんな目をさせるつもりはなかった。

 「菜摘。変だぞ、どうしたんだ……」
 
 「いいです。あとでお時間下さい。帰りにでもお話ししましょう」

 そう言って彼女は出て行った。あまりの衝撃で俊樹は何も言い返せなかった。

 
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