彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】

 「……うーん。正直に言います。お話自体はとても興味があります。義姉も民間企業で働きながら一号店を手伝っているんですが、楽しそうで。ただ、私の場合この店の跡継ぎなのでいずれ戻ると思うんです。それでもいいんですかね?」

 「それは構いませんよ。結婚退職する人だっているんだからね。でも、森川さんは辞めないと思うなあ。絶対楽しくて辞められないパターンだと思う。目に浮かぶよ」

 私もそう思う。だからこそ、踏み切れない。はあ。

 「まあ、ご両親と相談して下さい。良いお返事を期待してます」

 そう言うと、彼は颯爽と帰って行った。

 机のうえの空になったコーヒーカップと皿を下げて戻る。

 レジの前で座って、一部始終を見ていた母がひと言。

 「好きにしなさい」
 
 「え?」
 
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