彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】
「巧。本当にごめんなさい。私は最低だわ。あなたをこんなに待たせて、嫌われても何も言えない」
「……そうか。そういうことなんだな」
「本部長からいつその話が?」
「二週間前だ。クリスマスも、お前を誘うか悩んでいた。だが、お前と本部長の雰囲気が変わってきているのに一ヶ月以上前から気付いていた。前とは違う距離感だったり、特にお前の彼を見る目が違ってきていた。嫌な予感がしていたところへ、本部長から切り出された」
「……巧。私……看病しに行ってから距離が近づいて、別に何があったってわけじゃなかったの。一ヶ月近く頼まれるとたまに食事を作りに行っていただけ。ホントにそれだけだった。接触してきたのはここ一週間以内のことなの」
巧は彼女を見ながら天を仰ぎ、脱力した。
自分の弱さを呪った。彼女を前にずっと友人から飛び出すのを恐れていたのは自分自身の弱さだったと後悔した。