彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】
「本当にごめんなさい。きちんと先にあなたへ返事もせず、こんなこと。軽蔑されても文句の言えないことをしていると自覚してる。許して欲しいとも言えない。彼に惹かれています。巧とは付き合えない。ごめんなさい」
目の前で頭を下げる菜摘をじっと見つめる。
「……はー。わかったよ。というかわかってた」
菜摘はそっと顔を上げてうかがうように彼を見た。
「返事が二ヶ月ないんだから、馬鹿でもわかる。お前にとって俺は親友であって、男ではない。わかっていたんだ。でも切り出せないのは俺の弱さ。お前ひとりのせいではないから気に病むな」
「巧は悪くない。いつも私に気を遣わせないようにしてくれていた。甘えていたのは私。本当にごめんなさい」
「謝るなよ。つらいんだ。謝らないでくれ、頼むから……」
しばらく、ふたりで沈黙する。