彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】
「……ゆっくり考えろ。でも異動を決めてから動くのは遅すぎる。お前の守備範囲は広く、俺ひとりで抱え切れん。渋谷達若手に振ってもいいが、落差が出ると取引先や営業に迷惑かけるしな。時間をかけてできれば引き継いで欲しいんだ」
そう言うと、目の前に仕事のリストと引き継ぎ相手、その引き継ぎ内容などが書かれたプリントを見せられた。
忙しいのにこんなの作ってくれたんだ。巧には頭が上がらない。
目の前が涙で曇る。
「お、おい、菜摘どうした?」
グスッと鼻を鳴らす。
ハンカチで涙を拭く。
「私の仕事……忙しいのにこんなことまでしてくれて、巧ありがとう。ごめんね。このリストを見ると泣けてくる。私の大事な仕事。誰かにあげないといけないの?彼は好きだけど、そこまでしないといけないの?」