彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode. 0】
 
 兄の秘書の京子も彼の妻だ。

 一日中ずっと一緒にいる。兄は言う。彼女のことで心配することがないし、俺の潔白も証明できる。

 手を伸ばせばいつでもキスできる。まあ、それはおいておくとしても、それがベストだと自分も思っていた。

 兄とは違うが、自分はテリトリーに入れる人間をかなり選ぶ。少数精鋭主義。

 あまり、社交的でない自分をよく分かっているし、正直兄はいずれ社長だが、自分はそれを支える立場でしかない。

 仕事も今は他社へ父の意向もあって入り、秘密が多い。自分をさらけ出せる人が側にいないと疲れてしまう。

 家では自分を知り尽くし、自分が認める女としか、一緒にいたくないと思っていた。

 そして秘書は特にその色合いが濃い。自分の出自を隠すのも大変だからだ。

 「やっと見つけたんだ。逃すかよ……」

 無意識で呟く俊樹は、ここまで彼女に深入りしている自分に初めて気付いて、どうやったら鎖で繋げるか真剣に考えはじめた。

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