鬼の子
「殺人鬼がバスケ出てるぞ」
「棄権しろ〜」
「鬼の子出るな」
コート外では、他のクラスからブーイングの野次が飛ぶ。
こ、怖い。視線も悪口もこわい。
あれ、足が・・・・動かない。
悪口を言われる事は慣れているはずなのに、いつもと違う雰囲気、大勢の人に注目されている視線。
様々な要因が重なり、私は極度の緊張により手足が震え出した。立ち止まっている私をよそに、試合は進んでいく。
私は作戦で言われていたゴールの下に行く事なく、試合が始まった時にいた場所から動けないでいた。
「鬼王さん!ゴールの下に行って!」
「鬼王さん!」
叫ぶ声が飛び交う。一ノ瀬さんやクラスメイトの声は私に届いていなかった。
ドリブルの音が体育館に響き渡る中、私は暗闇に1人取り残されていた。
ど、どうしよう、怖い。
鬼の子の私が球技大会なんて、出たらだめだったんだ。
・・・・誰か、助けて。
「茜!!!」
「茜!お前なら大丈夫だ!」
スッと声が届いた。声のする方向に視線を送ると、「はあ」と息切れをして苦しそうにしている綱くんの姿があった。
「えっ?だいじょ・・・・・」
「お前は自分の心配しろ!前向け!」
はあ、吐息を整えつつ叫んだ心地よい声は、様々な雑音の中、体育館に響き渡った。
動かなかった足は、気付くと自然に1歩踏み出していた。
うん、悪口や中傷なんかに負けない。
パチっと自分の頬を叩いた。そして心の中で気合いを入れる。