鬼の子
「・・・つ、綱くん」
「気をつけてな」
私が綱君に向けて言いかけると、その言葉に被せるように、手のひらを、ひらひらさせて手を振っている。
「・・・う、うん」
手を振られたことが拒絶された気がして、それ以上は言えなかった。私は綱くんに背中を向けて歩き出す。
「怪我、何事もないといいな」
右隣を歩く光希は、いつにも増して優しい声で心配そうに私を気にかけてくれている。
でも、私は綱くんに自分の気持ちを伝えられなかったことが気がかりで、光希の話が頭に入って来ない。
また、自分の気持ちを伝えられなかったな。
今までは、伝えたところで何も変わらないし、
それなら伝えなくていいや。と思っていた。
どうせ、私の気持ちなんて誰も興味ないだろう。いつもそう思っていたから。
でも・・・綱くんは、いつも私の目を見て話を聞いてくれている。
・・そんな彼に、伝えなくていいの?
頭の中で、何度も自問自答をする。
———綱くんになら、伝えたい。