鬼の子
あまりにも切ない表情をしているので、どうしたのかと心配になる。
「・・・・・光希?」
「もう、茜の心の中は綱でいっぱいだな」
「そ、そんなこと・・・・」
「今までは、茜の中には俺しかいなかったのに。・・・・俺以外の男のことなんて、考えるなよ」
私の瞳を真っ直ぐ見て口を開く。光希の瞳がいつにも増して真剣で、目が離せなくなった。
「俺、今まで頭の片隅で鬼の子の呪いが怖くて、手を差し出すことも出来なくて、茜に触れることが出来なかった。
・・・それなのに、綱は平気で手を差し出しただろ?それが悔しくて、自分が情けなくて・・・・・」
それは私も気付いていたことだった。
私たちは幼い頃から一緒にいたけれど、手を握ったり、手を触れたことは一度もなかった。
「もう俺は呪いを怖がらないし、もう自分の気持ちからも逃げない」
そう言うと、私の手をぎゅっと握った。
従兄弟で幼い頃から、兄弟のように同じ時間を過ごした。鬼の子という特殊な境遇で、普通の従兄弟同士より絆は深いような気さえしていた。
それでも、手を握られたのは初めてだった。
鬼の子の呪いのせいで、光希が私に触れてくる事はなかった。
今私の手を握っている手は震えている。
生まれた時から、鬼の子の呪いを聞かされ、側で感じてきた光希。
私に触れているこの手は、どれだけの勇気と決断が必要だったのだろう。