鬼の子
返事の代わりに、コクリと頷いた。
返答が怖くて、心臓がドクドクとうるさくなる。
「・・・・小動物みたいで可愛くね?」
「へっ?」
予想外の反応に、変な声が出てしまった。
伸ばされた綺麗な手は、ふわっと私の髪をかきあげた。小さなツノがチラリと顔を出す。
「ちっさ」
そう言って、フッと目を細めて笑った笑顔があまりにも綺麗で、私は釘付けになった。
「かわいい」
目が離せなくて見つめていると、私に視線を戻した綱くんの瞳と目が合う。胸の奥が締め付けられて苦しい。
初めて会った日に、迷うことなく私に触れた彼は、難なく私の頭にも触れるのだ。
鬼の象徴のツノを見ても、引いたり蔑んだりせずに、笑ってくれる。胸の鼓動はどんどん早くなって波打つばかりだ。
幼い頃から、鬼の子の呪いのせいで、周りから嫌がられ、罵られ、悪意のある視線を向けられるばかりだった。
そんな人生を歩んできた私からすると、綱くんのする行動は、全部新鮮で嬉しいことばかりだ。
ただ、彼は何を考えているのか分からない。
何故、躊躇なく私に触れれるのか。
鬼の子の呪いは怖くないのか。
何故、公園でマスク越しにキスをしたのか。
私のことをどう思っているのか。
考え出すと分からないことだらけだった。
分からないことだらけだけど、
今のこの自分の気持ちは、もう、
誤魔化しようがない。
誤魔化しようがないくらい、ドキドキしている。
だめだとわかっている。
鬼の子の私が、恋をする資格なんてない。
わかってる。わかっているけれど、
この生まれた感情に名前をつけるなら
———これが恋かもしれない。