鬼の子
個室で他の患者さんがいないので、病室で気兼ねなく話す事ができた。元気そうなお父さんの姿を見る事ができて、不安で押し潰れそうだった気持ちが少し和らいだ。
「お母さん、この後先生とお話あるから。茜は先に帰れる?」
「先に帰ってるね」
お父さんに手を振って、病室を後にした。
少し安心したからか、急にお腹が空いてきた。
お父さんが癌だと知ってから、ショックでご飯が喉を通らなかった。昨日から何も食べていない。
病院内にあるコンビニで、何か食べれるものを買ってから帰ろうかな、と病院内を歩いていく。
コンビニに行くまでに、外来を通っていくので、診察を待っている患者さんで溢れかえっていた。
歩く先に見える人影に、私は目を奪われた。
———え?
なんでここにいるんだろう。
この場には似つかない綱君くんの姿だった。間違えるはずがない。あの横顔は確かに綱くんだった。
あの日から、学校に来ていない綱くん。
バスケがあんなに上手なのに、球技大会に出なかった綱くん。
死ぬのが怖くないと言った綱くん。
たまに見せる、いつもと違う顔の綱くん。
散りばめられたパズルのピースが、はまっていくように、今まで気になっていた事が、次々と頭に浮かんできた。