鬼の子





平日に学校を休んで病院に居たからって、病気だとは限らない。誰かのお見舞いに来ただけかもしれない。



きっと、私の見当違いなだけだ。不安を拭うように、何度も心の中で繰り返した。



思えば思うほど、何故か不安になってくる。
不安で胸が落ち着かない。


綱君は私に気付かずに、外来から離れた方へと歩いていく。少し離れたところから、見失わないようにこっそりと後をつけた。

外来から離れていくと、病院の廊下を歩く人だかりはだんだん減っていき、雑音も減っていく。


どこに向かっていくんだろう・・・・・。
掻きむしられるように乱れる心をなんとか落ち着かせようと、何度も深呼吸を試みる。



廊下の角を曲がると、ある病棟に入っていた。
これ以上は進めない。


"西2"病棟の入り口にある大きな看板にそう書いてあった。何科なんだろう。看板には診療科名が書いておらず、分からない。嫌な胸騒ぎで波立つ鼓動を抑えるのに必死だった。


呆然と立ち尽くす私のそばを、スッと通り過ぎる人がいた。私は反射的に言葉を投げかける。



「あの・・・。ここは何科ですか?」

「ここ?ここは『緩和ケア病棟』よ?」


突然声を掛けられて、少し驚いたような表情をして、柔らかい笑顔で答えてくれた。その答えと同時にズキっと心臓に痛みが走った。



緩和ケア。

その言葉の意味を頭が理解すると、思考が止まった。何も考えられない。考えたくない。



テレビで見た事があるくらいの知識でも、その言葉の意味が分かった。気が動転して言葉が見つからない。
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