鬼の子


私は、両親から抱きしめられた記憶がない。
幼い頃に、他の子のようにぎゅーっと抱きしめて欲しくて、抱きつくと勢いよく突き飛ばされた。
手を繋いだこともない。普通の子供ならされて当然のスキンシップという愛情をもらえなかった。


鬼の子の呪いが、いつ発動するのか手探りの状態だったので、今思えば仕方がないと分かる。
でも、幼い頃の私がそんなこと理解出来るはずもなく、愛されていないんだ、と思い生きてきた。


なので、今抱きしめられている状況に、嬉しさよりも驚きと戸惑いの感情が強い。どうしていいのか分からず、固まっている私の耳にすすり泣く声が届いた。


「お母さん・・・?」


「茜、ごめんね。本当は、こうして抱きしめたかった。ずっと後悔していたの。幼い頃の茜を抱きしめなかったこと。無条件で求めてくる幼い茜に答えてられなかったこと」



感情が言葉にならず、頷くことしか出来なかった。



「お父さんと、お母さんね、呪いが怖くて抱きしめなかったんじゃないの。言い訳に聞こえるかもしれないけど、私達が死んでしまったら、小さい茜を一人にさせてしまう。私達の他に誰が茜を守れるの?って。だから、私達は心を鬼にして長生きすることを誓ったの」



「でも、ずっと後悔していた。何も考えずに、幼い頃の茜を抱きしめれば良かった。あの頃に戻って抱きしめてあげたい・・・。お母さんとお父さんは、昔も今もずっと愛してるよ」


「・・・っ」


「もし、鬼の子の呪いで、人を殺めてしまっても、お母さんとお父さんは味方だから。
・・・茜のこと、ずっと愛してるよ」


「私は、呪われた鬼の子に生まれてきちゃったから、愛されてないんだと思ってた・・・。」


「鬼の子でも、例え悪魔でも、愛してるよ。
 たった一人の娘だもの——・・・」



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